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2019.10.22

環境ビジネスの海外展開を成功させるための必要十分条件とは

「西田さん、環境ビジネスを海外で展開するのはカンタンではありませんよ。」東南アジアで環境ビジネスに深く関わった方のコトバとして、コンサルタントの私の胸にはこのセリフが突き刺さっています。そもそも「日本では多くの場合、歴史的に地元でスクラップ事業を行ってきた会社が、近隣の声や環境啓発の高まりに応じて自治体が法的、財政的、政治的な介入を行った結果、たまたまリサイクル事業者という地位を築いたにすぎません。技術的な特殊性や大きな売りがあるわけでもなく、既得権益を分配されることに慣れきってきた。行政がそこまで面倒見てくれない途上国に出ていっても、そもそも技術的な特殊性があるわけでもなく、システムを構築した経験もない企業にできることはほとんどないのです。」というお話です。

 他方で、世界には環境ビジネスの分野で国際的に活躍している会社も複数存在しています。これらの会社は何がどう違うというのでしょうか?今日はそのポイントをお話しましょう。私は、乗り越えなければならない壁が2つあると思っています。

1. 確実な収益モデルを作ること
2. 綿密な市場対策を講じること

 まず「確実な収益モデル」についてですが、たとえ途上国といっても、環境対策のニーズは確実に存在しています。そこで収益を上げるには、①ニーズにきちんと対応すること、②他社が真似しにくい付加価値を提供すること、③事業活動に加えて、収益性を確保するための活動をしっかり行うこと、の3点がポイントです。

 たとえば東南アジアでは、現在も経済成長が続き、インフラ投資へのニーズには依然として高いものがあります。そこで良質な資材を安価に提供できれば当然ですがビジネスチャンスは広がるわけです。バージン材を補完する再生材の活用にも十分な可能性があると言えます。そこで他社が真似できない再生材製造ノウハウを展開する、というのは理想的な取り組みで、リサイクルビジネス一般に言えることですが、この部分での差別性を「キラーコンテンツ」として提供できるかどうかに命運がかかってくると言えるでしょう。たとえ冒頭お話したような事例であっても、技術開発などによるキラーコンテンツを持つことができれば道は拓けるのです。

 さらに、収益性を確保するための取り組みとして再生材活用のメリットを訴求するなど、アドボカシーと呼ばれる活動にも目配りする必要があります。たとえば再生材はバージン材に比べてCO2の発生量が極めて少ないというパターンが多いのですが、その点を訴求することでユーザーへのメリット感を売り込むことができます。最近よく聞くようになったESG投資などの観点から、どのような資材を使っているのかについてもユーザーの評価は多面的なものになってきています。

 と、ここまでは「絵描き」にあたる事前準備の段階である程度整理することができるのですが、そのプロセスを確実なものにするためにはやはり綿密な市場対策が欠かせません。東南アジアで成功している会社の多くは、日本政府の公的支援を活用した市場調査や、関係するODA事業との協力、さらには信頼できる地元パートナー探しのための投資などに積極的な対応をしています。

 海外展開を進める上で、実際に操業する段階での「エコシステム」までしっかりと作り上げたうえで実施して行く、支援してくれる日本政府に対するコミットメント、地元パートナーとの契約、更には自社内での位置づけなど、経営者として強い覚悟が求められる段階です。

 「キラーコンテンツ」と「エコシステム」。この必要十分条件をしっかりと満たしたうえで、海外展開で成功するために求められるのは、何より経営者の意思決定と、それに基づくブレない事業展開なのです。当社では、このような対応を進める経営者を積極的にサポートしています。いくつもの成功事例から抽出されたノウハウをご提供することで、一つでも多くの事例を成功に導けたらと祈念しています。

2019.10.15

循環経済とサーキュラーエコノミーの違いとは

 このところ、環境ビジネス業界ではサーキュラーエコノミーと言うカタカナの単語をよく耳にします。使い終わった品物でも、リサイクルしたり修理したりして、なるべく廃棄しないようにする、みたいな処し方であるという理解に間違いはないのですが、だとすると敢えてカタカナ表記されるのは何故なのでしょうか?

 よく、リデュース・リユース・リサイクル、あるいは3Rというキャッチフレーズで語られてきたのが循環型社会、あるいは循環経済というコンセプトです。日本はもう20年近く、国を挙げてこの取り組みを続けて来たので、廃棄物削減への取り組みは法律から処理施設、初頭教育、社会規範そして業界構造に至るまで、社会の隅々まできめ細かく組み込まれた国になりました。定量的に計測したことはないのですが、3Rの普及率みたいなものを調査してみれば世界でもかなり上位に入ることは間違いないだろうと思います。

 この取り組みは、そもそも各地の埋め立て処分場が一杯になってきて、少しでも延命させなくてはならないという背景から始まったところがあり、その意味では基本的に資源投入と廃棄を大前提とした経済構造に基づくものでした。これはこれで成果を挙げ、日本政府も「日本の取り組みは成功した」と自認しています。

 これに対して、サーキュラーエコノミー(カタカナ)の思想的な前提はだいぶ異なっていまして、そもそも化石燃料をはじめとする地下資源の収奪と投入が持続可能性を損なっている、みたいなやや過激ともいえる考え方がその基礎になっているという違いがあります。

今仮に、一切の採掘を止めて社会にある資源のみを使って生き延びるためには、現有資源を再循環させて使ってゆくしかないだろう、でもそうすればCO2排出も、環境汚染もこれ以上増えることはない。サーキュラーエコノミーの発想の原点は、実はそんなところにあったりするのです。

この考え方は2015年にEUが支持したことから広まったという経緯があり、これまで日本が取り組んできた循環型社会や循環経済とは「似て非なるもの」なのです 。

(参考:https://www.researchgate.net/publication/319403544_The_Theoretical_Background_of_Circular_Economy_and_the_Importance_of_it’s_Application_at_Renewable_Energy_Systems_The_Theoretical_Background_of_Circular_Economy_and_the_Importance_of_it’s_Application_ )

 ではなぜいま日本でサーキュラーエコノミー(カタカナ)なのか?という疑問が湧いてきますね。そこには資源循環と気候変動対策の切っても切れない関係があり、すでに成果が出てしまった3Rを細々と続けているだけでは何もしていないのと同じ、との批判を免れないほどに切羽詰まった状況がある、と言わざるを得ません。

 先日の台風15号、直近の19号による被害でも明らかなように、気候変動対策を本気で推し進めないことには、地球の持続可能性がかなり危機的な状況にあるのは明らかなのですが、だとすると資源循環プロセスにも聖域はない、とする考え方の方が勢いを増しているのが世界の現状なわけです。

 ソロバンが合わないから、法律がそうなっていないから、前例がないから。これらの理由でこれまで見送られてきた資源循環も、改めて見直されようとしています。もしもそこにビジネスチャンスがあるのだとしたら、今こそ先行的に取り組むべきタイミングではないのか?コンサルタントとして私はいつもそんな風に考えているのです。

2019.10.08

環境ビジネスと災害レジリエンスについて

 先日の台風15号は千葉県南部に甚大な被害をもたらしましたが、それによって発生した災害がれきの処理が大きな負荷になっていることが一部で報道されています。新聞報道によると、自治体の焼却工場はOB人材の応援も受けて、24時間操業によるフル稼働体制で災害がれきの処理を続け、周辺自治体の協力も得て災害がれきの処理に当たったそうです。

 環境省は2014年に全国の自治体に対して「災害廃棄物処理計画」作成を求めており、この計画が国の「廃棄物処理施設整備計画」に反映される仕組みを構築しています(災害廃棄物対策指針の位置づけ及び構成 https://www.env.go.jp/recycle/waste/disaster/guideline/ による)。

 通常、焼却工場など自治体が所管する一般廃棄物(家庭や事業所から排出される、いわゆる一般ごみ)処理施設については、想定されるごみの排出量を一日16時間程度の稼働で無理なく焼却できる容量で設計されています。大規模な自治体では、人口減少に加えて環境教育の充実などから実際の排出量が設計値を下回り、平時の操業について容量のゆとりが生じている場合もありますが、一旦災害が起きると発生するがれきの量は尋常ではありません。2016年の熊本地震では約310万トン、2018年の西日本豪雨では約180万トンの災害がれきが発生したと言われています。

 これらの災害がれきをどう処理するか、という問題ももちろんありますが、環境ビジネスの視点から言うと、災害レジリエンス(抵抗力)を強化してがれきの発生量を減らすことにこそビジネスチャンスがあるのではないかと思われます。

 最近、自宅近くに新築のアパートが出来たのですが、窓という窓にシャッターがついています。他方で中古の集合住宅にはガラス窓の保護が不十分な物件も少なくないのですが、窓ガラスにワイヤーが入ったサッシや、後付けできるタイプのシャッターなどの対策ビジネスにとっては商機であるということができるでしょう。同様に、エアコンの室外機や太陽光発電パネルのパワコンなどを水没から守るためのかさ上げ架台なども需要が高まるのではないかと思われます。

 そして何より千葉の経験を生かすのが「停電対策」です。緊急避難的な対策としては、自動車の12V電源を家庭用電源として使えるインバーターを備えておくことでしょう。小型の発電機があればそれに越したことはありませんが、家庭で太陽光発電をされている場合、バッテリーの備えがあるだけで夜間にも電気が使えるため、蓄積される生活ダメージは全く違ってくるのです。

 東日本大震災後には、家具の転倒を予防するためのつっかえ棒などがよく売れたことが思い出されます。まさにビジネスチャンスは正直です。今のところ気候変動による災害の深刻化が向こう数年以上は続くものと思われます。災い転じて福となせるよう、感応度を研ぎ澄ませておきたいものですね。

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