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2019.08.13

自然資本のバランスシート

 先日、緑が分厚い山裾をクルマで走る機会がありました。普段は街路樹やマンションの植え込みなど、都会の喧騒にまみれた人工的な緑しか目にしていないせいか、とても豊かな気分にさせられたものです。

 自然資本、という考え方は以前このコラムでも紹介させていただきました。手つかずの自然が社会にどれだけの価値をもたらしているか、という視点が国際社会でも注目されるようになったのはごく最近の事だと思います。

 伝統的な考え方に基づけば、開発のためにある程度自然を犠牲にすることは仕方ない話であって、開発によって人間社会が豊かになることでその行為は正当化されてきたわけです。これまでも野放図な開発は批判されてきたわけで、特に日本では昭和の時代に相次いだ公害によって自然資本も大きく毀損されたことから、環境アセスメントに代表される危険予知と対策に関する検討は早くから導入されていました。

 しかしながら、環境アセスメントはそのスタート地点が「まず開発ありき」というものであることから、どうしても「ここまで痛めるのは仕方ない」的な結論がはじめから予定されたものになりやすく、自然資本が本来持っていた価値の保全、あるいはその向上というところまで踏み込めたものになっていないのが現状だと思います。

 たとえばここ最近、IoTなどを活用したモニタリング技術が飛躍的に向上していることを生かして、自然資本の現況をリアルタイムで評価できるようなシステムが構築できたとすると、そこには何か価値が生まれるのではないか、というのが今回皆さんと共有したい洞察です。具体的には喫緊の課題である気候変動対策が考えられます。

衛星画像を使った解析で、熱帯雨林の減少がモニタリングできるとすると、現地でどのようなことが起きているのかについてはCCDカメラやCO2センサーなどで追跡できるので、とりあえずその情報を集めて、後はAIに解析させるというようなイメージだと思います。そしてその結果を分かりやすく定量的な変数で示せればそれが社会の役に立つのではないか、というところだと思います。

 前回お知らせした通り、アマゾンの熱帯雨林は急激な開発の促進によってかつてない危機に見舞われています。同様に、インドシナ半島から南太平洋島嶼部にかけての熱帯雨林も危機に瀕しており、本来地球が持っていたCO2を固定化する能力は減少する一方なのです。排出量の削減は喫緊の課題ですが、同様に吸収量の低下も憂慮されるべき問題だという認識はまだあまり深刻に考えられえていない状況です。

 今年8月号の雑誌「選択」によると、イギリスのNPOが試算したところでは今わかっている世界中の石油(=確認埋蔵量)を燃やしたと仮定して出てくるCO2の総量が約2兆8千億トン、ところがいわゆる「2度シナリオ」(産業革命以降の温暖化を2℃以内に収める)を実現するためには、もうあと5千6百億トンしか燃やせない(それ以上燃やすと2℃を超えてしまう)、という指摘があります。この5千6百億トンは、熱帯雨林などによるCO2固定化の能力が減ればそれだけ少なくなってしまう数字なのです。

その減少を食い止めるためにも、自然資本の価値とその増減を定量的・科学的に観察・報告できるようにすべきである、世の中の議論は多分そんな方向に進んでゆくのだろうなと見ています。そのために期待されているのが金融の知見であり、実際に今、国際社会では環境と金融の知見が激しくぶつかり合いながら化学反応を起こしつつある、そんな時代なのです。そう遠くない将来に、2度シナリオを達成するために必要な行動が数値目標とともに語られるようになるのではないでしょうか。

 今やその達成が危なくなりつつあることが繰り返し報道される「2度シナリオ」ですが、対策として考えられるものの一つが植林です。ただ、そのスピードは極めてゆっくりしており、石油を燃やしたことによるCO2排出を効果的に吸収できるほどの力はないのですが。

その他、CCSと呼ばれる二酸化炭素回収・貯留システムも有効な対策だと言われていますが、現状ではコスト的な問題が大きいようです。そうなると、どうしても今ある自然資本をどのように保全できるかという取り組みが重要性を帯びてきます。

せめて少しずつでも木を植えて、たとえ高くてもCCS装置を稼働させ、石油や天然ガスの利用を少しでも控えるために。求められるのは、言ってみれば自然資本をも含めた地球環境全体のバランスシートみたいなものなのだろうと思います。まずはそれをしっかりと共有するところから始められるよう、議論を見守りたいと思います。

2019.08.05

マングローブ林再生は何のために

 東南アジアの国々がエビを養殖して、それを日本が輸入しているという話はよく知られていると思います。スーパーで冷凍食品として売られているブラックタイガーなどのエビの多くは、産地の標記を見るとベトナムやインドネシアなど、東南アジアの国が記されています。なぜこれらのエビは東南アジア産なのでしょうか?

 これらの国々でかつて行われていたのが、岸辺のマングローブ林を伐採し、エビの養殖池を造成したうえで、高密度養殖と言って一度にたくさんのエビを養殖し、コストを下げて早期に投資回収を図るという養殖ビジネスです。それまでの養殖法に比べて圧倒的なコスト競争力を持つため、市場では一気に東南アジア諸国が幅を利かせるようになった、ということです。

この方法はエビを高密度で育てるため病気が発生しやすく、それを押さえるために抗生物質なども併せて投与されていたということですが、しばらく使っていると養殖池自体がエビの排せつ物やエサの残り、投入された薬剤などで環境が悪化して使えなくなり、近隣のマングローブ林を伐採してはまた新たな養殖池を造成するという悪循環が続いていたのだそうです。

近年、生物多様性保全の観点からマングローブ林が再生され、それと合わせてマングローブ林の中にエビ養殖のための水路が作られ、そこにマングローブの葉が落ちて微生物に分解され、発生するプランクトンをエサとしてエビが育つ、というような循環型のモデルも実践されはじめているようです。

エビの養殖があってもなくても、再生されたマングローブ林は、気候変動による海面上昇や大型台風による被害を緩和する働きがあって、その意味で気候変動対策としては一定の効果を持つ取組であると言えます。

ところが、この再生マングローブ林は厳密な意味での「再生」になっていないという批判があるのだそうです。どういうことかというと、伐採される前のマングローブ林にはさまざまな樹種が混在していたのだそうですが、植林を進める上で同じような樹種混合林を目指すとどうしてもコストが高くなるということ。単一樹種でも防災林の役目は果たしてくれるそうで、だとすると同じコストをかけるなら、循環型のエビ養殖を取り入れて、その対価でコスト回収ができるようにしたほうが持続性は高まるのではないか、という議論があるわけです。

いやいや、生物多様性保全の観点から言えば、本来自生していた複数の樹種を取り入れてこそ、マングローブ林のあるべき姿が実現できるのだ、という議論もあるわけです。果たして私たちが目指すべきなのは、原生の生物多様性を極力保全・再生するということなのか、あるいは温暖化対策としてのマングローブ林保全(単一樹種)を低コストで実現するということなのか、もしくは循環型のエビ養殖と組み合わせて、環境にやさしい養殖エビを市場に投入することなのか。

いわゆるサーキュラーエコノミー(CE)を追求するならば、循環型エビ養殖が良いように見えますが、CEが生物多様性保全に優先するなどという取り決めはどこにも存在しないわけです。国連が提唱するSDGsでも、生物多様性保全を求めるゴール14・ゴール15と、温暖化対策を求めるゴール13、そして循環型経済を進めようとするゴール12の間に優劣関係はありません。

ところがこの場合、ひとつの対象事案について言えばこれらは確実に排他的な選択肢です。その場合、最終的な選択肢がどのようにして選ばれるのか。どのような結論になるにしても、決定プロセスに透明性が求められることには間違いなさそうですね。「説明責任」という視点から、環境ビジネスが配慮を求められるべきポイントだと思います。

2019.07.30

火事対策と新市場

 今に始まったことではないかもしれませんが、このところ日本全国の産廃事業者が持つ廃棄物保管施設で火災が起きるという事案が注目されています。先週は大阪・高槻市で3人が死亡する事故が起きていますし、この5月には茨城県で一週間以上燃え続けた火災がありました。産廃置場における火災の危険性はずいぶん前から言われていることなのに、なぜ連続して発生するのでしょうか?

 それは、収集される廃棄物の中にどうしても引火性のあるガスや電池など、火災の原因となるものが混じってしまうから、というのが関係者の共通認識のようです。特に自動車は、以前のような内燃機関を積んだ車両という概念から、車両に乗った電子機器と呼んだ方が良いほどの変貌を遂げています。

電池も、PHVやEVなど駆動系に使われるものに加えてエアコンや音響機器、GPS他のユーティリティに組み込まれた電池が沢山あること、さらにこれらを一元的に把握できる資料がない(!)という現実が重なって、一旦廃車となるときに誰がどのように電池を外して火災が起きないようにするか、という部分が大変難しい工程となって立ちふさがるのです。

自動車メーカーとしては、駆動系の電池や純正品についてはある程度責任を持てると思いますが、購入後にオーナーが搭載したカーステレオ、テレビ、GPSなどについている電池は守備範囲外とならざるを得ません。ましてや中古車として複数オーナーの手を経ている車体は「どこに、どんな電池が入っているか」だれにも分からない状態で廃車になるわけです。

これは、そういう技術を持っている会社がいるとしたらまさに商機だと思われるのですが、微弱な電流を感知するなどして、電池を発見し取り除ける技術があったなら、その市場はおそらく全世界に広がるであろう、ということが言えます。

折しもCASEすなわちインターネットへの接続(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Sharing)、電動化(Electric)という革命的なテーマへの対応が進み、クルマは発明以来最大の転機を迎えています。さらに廃車後の安全な処分もCircular Economyという文脈における革新的な取り組みとして評価されるようになるでしょう。この商機を逃さずに勝負したいという企業があれば、当社が全面的にサポートさせていただきます。

明日の自動車社会を切り開くのは私たちだ、そういう気概を持った企業にこそ、市場の門は開かれるのです。

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