令和元年を迎える日本経済は、西を向いても東を見ても人手不足の大合唱です。不足しているだけならまだしも、人材のレベルが需要に追い付かず、頭数はいるのに肝心の仕事を任せられる層がごく手薄である、という経営者の悩みも深刻化の一途です。一体どうすればこのお悩みを解決できるというのでしょうか?
人材のレベル不足は、頭数の補充と違って「とりあえず手を打てば」何とかなるという性質の問題ではありません。主に業務の品質管理面で、要求する仕事と能力の間に明らかな開きがあり、任せたくても任せられない状況が発生しているということだからです。応急的に同僚が交代でその穴を埋めたり、上長あるいはどうかすると社長が現場に立つことで何とか急場を凌いでいる、というような場合がほとんどです。
この場合、最も合理的な選択肢は何か?経営者が考えるのは以下の3つではないかと思います。
1) 能力ある人間を雇用し、その任に充てる
2) 現在担当している人間を教育し、仕事を任せる
3) 職場の仕事をやりくりすることで、皆で分担してその仕事をこなす方法を考える
平成の長い不況が続いた時期は、1)の方法でも人が採れたと思うのですが、もはやそういう時代ではなくなりました。
ITの普及によって、ルーティンワークを中心として部分的には3)が当てはまるケースも出てきていますが、クライアントごとに異なる個別要求への対応や業務の品質管理に関わる部分では、まだまだ人間の力が必要とされており、「皆で分担して」対応することが恒常的な残業を意味するという場合も少なくありません。令和の時代になって加速する働き方改革に逆行する解決策だ、との批判は免れないでしょう。
教育というと時間がかかり投資も必要となることから、一見回り道のように見えるかもしれませんが、実は2)が最も効率的で、最も持続性の高い解決策なのです。それを効果的に行うためはひと手間が必要なのですが、この手間を惜しむかどうかで成功の確率がぐっと変わってくるのです。前置きが長くなりましたが、今日のコラムはここがポイントです。
上の表を見てください。今日のテーマは人材のレベル不足感についてなのですが、それは「誰にとっての不足感なのか?」という点が大きなポイントになってきます。「もしかして社長ご自身こそが社員のレベル不足感を感じているのではないですか?」という問いかけにあなたはどうお答えになりますか?
その通り、と言われる方も少なくないと思いますが、それではあなたのフラストレーションは溜まる一方、片や現場あるいは本人がそれをどうにかしようという自発的な対応はほとんど取られないでしょう。
他方で、世の中には坂本光司先生の「日本で一番大切にしたい会社」のように、社員が自分の頭で考えて、日々会社のために嬉々として働く会社も確実に存在します。そういう会社は例外なく社内で「目指すべきゴール」についての情報が共有されています。
それは経営理念であったり、会社を良くするための全社的活動であったり、社員一人ひとりへの思いやりや働きかけだったと、見え方は会社によって少しずつ異なりますが、大事なことはそれを通じて会社として目指すべきゴールが経営者と社員の間に共有されていること、なのです。
ゴールが共有されていれば、社内の誰もが自分はどのような位置にいるのか、ゴール達成のために何がどう足りないのか、それを自ずと考えるようになります。なぜなら人間は誰も自分が一番かわいいから、という古今東西変わることのない鉄則があるからです。
もうお分かりだと思いますが、「ひと手間」とは、「目指すべきゴールの共有」を図ることなのです。そのうえで、社員がレベル不足を自分事として捉えることをほめてあげてください。そうすることで、少しずつ会社は変わり始めます。
レベル不足解消のための教育投資や時間は、場合によっては不可避かもしれません。がしかし、その動きは一見ゆっくりとでも自発的に進む道をたどり、副次的な効果として社員のやる気や定着率も向上するようになるのです。
次回はゴール共有後の変化を加速させるための手段についてお伝えします、お楽しみに。