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コラム

2019.06.25

プラスチックごみ問題の行方について

 先週の初めにかけて、国内の各メディアでも長野県で開催されていたG20環境大臣会合においてプラスチックごみに関する対策が話し合われ、国際的な枠組みが作られることを伝える報道が相次ぎました。

 この話は、今週大阪で開かれるG20首脳会議でも引き続き話し合われる予定です。なにせ世界をリードする20ヶ国によるコミットメントですから、それはそれで大変意義のあることです。世界のプラスチックごみに対する対策が加速化されることには間違いがないのですが、この議論は今後どのように展開してゆくのでしょうか?

 識者によると、事の起こりは国連の環境対策に関する無償資金スキームである地球環境ファシリティ(GEFといいます)の科学技術評価パネルという専門家会議が2013年に海洋プラスチックの問題を提起したことによるのだそうです。

 1992年のリオ地球サミット以降、国際社会は環境面のさまざまな課題について取り組みを続けています。その中にはオゾン層保護の問題のように成功したという評価を与えられそうなものもあれば、バーゼル条約に代表される廃棄物の越境移動問題のように手続きが整備され、現在システムとして稼働中のもの、パリ協定のように対策の進め方は決まったが、政治的な部分でまだ先行きが不透明なものがあるなど、状況はさまざまです。

 今年5月に行われたバーゼル条約の第14回締結国会合では、汚れたプラスチックごみを有害廃棄物扱いすることが決まり、法的に一定の歯止めはかけられたのですが、根本から問題を解決するためにはそれだけでは不十分です。

 一つの方策としては、既存の国際条約にプラスチックごみの問題を追加的に織り込んで解決を図るというアプローチがありうるのだろうと思います。具体的には生物多様性条約などが挙げられますが、本来は気候変動を取り扱うパリ協定についても関係性は少なくないと言われています。既存の枠組みを尊重するため、準備工期やコストなどを押さえる効果が期待される反面で、社会的な訴求性は必ずしも強くならないかもしれません。

 今一つの方策としては、水銀問題について水俣条約ができたように、海洋プラスチックを含む課題解決のために新しい条約を立ち上げるというやり方で、これだとG20の負託に十分応える形で海洋プラスチック問題に立ち向かえるだけの強い訴求性を持たせることが可能になります。

しかしながら新しい条約を作るとすると、準備にかかる時間やコストなど、条約一本分の負荷が新たに発生することになります。ちなみに水俣条約は2003年にスイスとノルウェーが提案してから2013年に条約として成立するまで10年の時間が必要とされました。世界がプラスチックごみの問題に対応できるようになるまで、それだけの時間をかけるのか?ここは大変難しい問題です。

私見ですが、もともとGEFが震源地であるという歴史を想起すると、GEFは新しい条約を欲しがっているのだろうなという絵姿がおぼろげに透けて見えるような気がします。というのも、GEFが取り扱う複合的な環境課題のそれぞれについて、国際社会は関連する条約を持っているのですが、こと海洋プラスチックについては国際水系の環境保全というマンデートを負いながら、他方で参照すべき条約が存在しないというアンバランスな状態が続いているためです。

実務上対策の予算措置を講じる担当者が「参照できる条約を作って」と言っている状態だとしたら、世の中は意外と速く動くかもしれません。水俣条約よりも短い工期で条約が出来て、素早い立ち上がりで対策が打たれるようになるのではないかと、現状について私はそんなふうに見ているのですが。

2019.06.18

国際リサイクルシステムとビジネスチャンス

昨年、中国が廃プラスチックの輸入を全面的に禁止する措置を取って以降の国際リサイクルシステムはその余波に揉まれ続けています。その中で改めて見えてきた景色があるので、今日はそのあたりについて書こうと思います。

1. 改めて判った縦割りの市場特性
日本は特にそうですが、自治体が取り扱う一般廃棄物(主に家庭や一部の事業所などから出て、公共の廃棄物処分施設に持ち込まれるもの)と民間事業者が取り扱う産業廃棄物で処理のフローが異なります。

廃プラスチックの場合、前者は主として容器包装リサイクル法に則って自らまたは指定法人やリサイクル事業者に委託してマテリアルやケミカルおよびサーマルリサイクルされています。

後者はマテリアルリサイクルの原料として市場で有価取引の対象となってきた経緯があるのですが、これまで買い手は主に中国の廃棄物処理業者でした。このため大量の廃プラスチックが世界各地から中国へと輸出されてきたのです。

先日、都内で行われたセミナーで専門家による報告があったのですが、中国政府による禁輸措置以降、国内でプラゴミの引き受け価格は3倍から、どうかすると10倍にも達している状況だそうです。10倍とは「事実上、引取をお断りします」という価格ですよね。

他方で自治体による(一般廃棄物ということになります)処分施設への受入について、受入価格自体はまだ大きく変動するまでには至っていないとのことで、これにはいくつかの原因があると考えられます。つまり、①一般廃棄物と産業廃棄物のフローが規制によって峻別されており、相互の影響があまり大きくない、②一般廃棄物の処理は法律に則り廃棄物の受入方法や処分量について計画があり、その数字がすぐに大きくは変動しない、③人口減少などによって一般廃棄物は全体的に減少傾向にあり、入札価格が高くなる基調とはいえない、等の原因によるものと思われます。

今、日本のプラゴミの1割は東京地区で出てくるものだそうですが、処理余力のある地方の焼却工場へ輸送できれば、より効率的な処理ができるかもしれないところ、輸送ドライバーの人手不足がネックになっていて、なかなかうまく対応できていない、という話もありました。

ニュースでは、各地の産廃置場が行き場を失った廃プラスチックで満杯状態、というような話も聞きますが、厳しく縦割りされた廃棄物のフローを見直すことが出来れば、物理的に本当に困る事態を招くことなく対応できるのかもしれません。

2.  規制で変わるビジネスモデル
 マクロで言って廃プラスチックは産廃分野が供給過多、一廃分野に余裕ありという状態なわけですから、経済原則的に言えば一廃分野に価格交渉力が生じるはずで、そうだとすると一廃分野の処理事業者にとっては稼ぎ時、になるはずの話です。他方で産廃事業者の立場に立てば、これまで中国が買い取ってくれた廃プラスチックの儲けがなくなり、一廃の処理施設に持ち込むためのコストがかかるとすれば、その分の負担をどうするかが頭痛のタネになるところだと思います。

 廃プラスチックは、実は焼却時のカロリー原単位が高く、ごみ発電をしている施設にとってはサーマルリサイクルのための大切な資源と言える側面を持ちます。ここで生じる儲けの可能性として、廃プラスチック1㎏あたりのカロリー貢献度を金額に換算できれば、産廃事業者から一廃処理施設への受け渡しモデルが構築できるのではないだろうか、という仮説が成り立ちます。

実際には廃棄物の受入条件が条例等で規制されている側面もあるので、そう簡単な話ではないと思いますが、この問題には保管場が満杯で苦しんでいる産廃事業者への対策という側面もあります。ですからたとえば地方議会などが音頭を取って新たな商流を開拓できれば、いわゆるグリーンファイナンスによって社会全体として最適な取り組み方法を編み出せる可能性は小さくないと思います。

諸外国と異なり、すでに製品段階から色のついていないPETボトルや剥がしやすいラベル、圧縮しやすい発泡スチロールなどが一般的となっている日本は、規制の枠組みを機動的に運用することでリサイクル比率を上げ、災い転じて福とするビジネスチャンスも創り出して行ける土壌にあるのです。

2019.06.01

循環型社会の隙間

 イソップの「ウサギと亀」に出てくるウサギみたい。私は環境ビジネスのコンサルタントをしていて、日本の立ち位置をよくそんな風に感じることがあります。他国より圧倒的に先行する立場を得ながら、その後の展開に対する油断があったりしていつの間にか大きな商機を逃してしまう、みたいな展開が多いからです。かつて世界最先端を誇った太陽光発電の分野でも、今日日本勢はまるで振るわないのが実態です。

 いま、環境問題を議論する国際会議などでちょっとした流行コトバになっている感があるのが「サーキュラーエコノミー(Circular Economy)」です。直訳すれば循環経済ということになりますが、その意味するところは単に「廃棄物をリサイクルして原材料に使う」、というシンプルなものではなく、社会の環境負荷を低減させる様々な取り組みをも包含するもの、とされています。

広義の考え方ではライドシェアや民泊などのシェアエコノミーも含まれますし、単なるリサイクルやいわゆる”3R”と異なるのは、資源リサイクルに対応しやすいように製造業のほうも歩み寄る、という部分があることです。たとえば設計を変えて、より再生資源を使いやすくしたり、製品として廃棄される場合に分解しやすくしておく、などの対応がこれにあたります。

いささかややこしいのですが、日本には「循環型社会形成推進基本法」という法律がありまして、今から19年も前の平成12年に制定されたものなのですが、これに基づき5年ごとに「循環型社会形成推進基本計画」という計画が政府によってまとめられています。ただこの法律は若干立て付けが古く、製造業の役割を強く打ち出しているわけではありませんで、主に3Rの推進を進めようとするものです。中身的にも、たとえば焼却処分による熱回収がリサイクル(サーマルリサイクルと言います)に含まれる、といった具合です。

国際社会が議論しようとしているサーキュラーエコノミーは、基本法が目指すものと同名異質だと思うのは何も私だけではないと思います。ところが、すでに盤石な法整備が済んでいて、そのための計画が着々と推進されている現下にあって、いまさら法律を手直しする、などという話にはどうもならないらしいのです。確かに、字面を翻訳すれば日本はあたかも20年前からサーキュラーエコノミーを推進してきたようなことを言えなくもないのだろうと思いますが、シェアエコノミーの普及ぶりを見ればそこに大きな瑕疵があることも一目瞭然だろうと思うのです。

日本の法律や体制と、国際社会の求めるものとの間に隙間が存在する。この問題は技術を持つ日本企業にとっての課題であると同時に、ジャーナリストや行政官を含めたより広い範囲で共有されるべき要素を含んでいます。そういう部分の情報発信や意見交換についてもコンサルティングを通じてお手伝いさせていただいております。世界と歩調を合わせて循環型経済を推進するために、ぜひ一度当社のセミナーを受講ください。

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