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コラム

2019.08.05

マングローブ林再生は何のために

 東南アジアの国々がエビを養殖して、それを日本が輸入しているという話はよく知られていると思います。スーパーで冷凍食品として売られているブラックタイガーなどのエビの多くは、産地の標記を見るとベトナムやインドネシアなど、東南アジアの国が記されています。なぜこれらのエビは東南アジア産なのでしょうか?

 これらの国々でかつて行われていたのが、岸辺のマングローブ林を伐採し、エビの養殖池を造成したうえで、高密度養殖と言って一度にたくさんのエビを養殖し、コストを下げて早期に投資回収を図るという養殖ビジネスです。それまでの養殖法に比べて圧倒的なコスト競争力を持つため、市場では一気に東南アジア諸国が幅を利かせるようになった、ということです。

この方法はエビを高密度で育てるため病気が発生しやすく、それを押さえるために抗生物質なども併せて投与されていたということですが、しばらく使っていると養殖池自体がエビの排せつ物やエサの残り、投入された薬剤などで環境が悪化して使えなくなり、近隣のマングローブ林を伐採してはまた新たな養殖池を造成するという悪循環が続いていたのだそうです。

近年、生物多様性保全の観点からマングローブ林が再生され、それと合わせてマングローブ林の中にエビ養殖のための水路が作られ、そこにマングローブの葉が落ちて微生物に分解され、発生するプランクトンをエサとしてエビが育つ、というような循環型のモデルも実践されはじめているようです。

エビの養殖があってもなくても、再生されたマングローブ林は、気候変動による海面上昇や大型台風による被害を緩和する働きがあって、その意味で気候変動対策としては一定の効果を持つ取組であると言えます。

ところが、この再生マングローブ林は厳密な意味での「再生」になっていないという批判があるのだそうです。どういうことかというと、伐採される前のマングローブ林にはさまざまな樹種が混在していたのだそうですが、植林を進める上で同じような樹種混合林を目指すとどうしてもコストが高くなるということ。単一樹種でも防災林の役目は果たしてくれるそうで、だとすると同じコストをかけるなら、循環型のエビ養殖を取り入れて、その対価でコスト回収ができるようにしたほうが持続性は高まるのではないか、という議論があるわけです。

いやいや、生物多様性保全の観点から言えば、本来自生していた複数の樹種を取り入れてこそ、マングローブ林のあるべき姿が実現できるのだ、という議論もあるわけです。果たして私たちが目指すべきなのは、原生の生物多様性を極力保全・再生するということなのか、あるいは温暖化対策としてのマングローブ林保全(単一樹種)を低コストで実現するということなのか、もしくは循環型のエビ養殖と組み合わせて、環境にやさしい養殖エビを市場に投入することなのか。

いわゆるサーキュラーエコノミー(CE)を追求するならば、循環型エビ養殖が良いように見えますが、CEが生物多様性保全に優先するなどという取り決めはどこにも存在しないわけです。国連が提唱するSDGsでも、生物多様性保全を求めるゴール14・ゴール15と、温暖化対策を求めるゴール13、そして循環型経済を進めようとするゴール12の間に優劣関係はありません。

ところがこの場合、ひとつの対象事案について言えばこれらは確実に排他的な選択肢です。その場合、最終的な選択肢がどのようにして選ばれるのか。どのような結論になるにしても、決定プロセスに透明性が求められることには間違いなさそうですね。「説明責任」という視点から、環境ビジネスが配慮を求められるべきポイントだと思います。

2019.07.30

火事対策と新市場

 今に始まったことではないかもしれませんが、このところ日本全国の産廃事業者が持つ廃棄物保管施設で火災が起きるという事案が注目されています。先週は大阪・高槻市で3人が死亡する事故が起きていますし、この5月には茨城県で一週間以上燃え続けた火災がありました。産廃置場における火災の危険性はずいぶん前から言われていることなのに、なぜ連続して発生するのでしょうか?

 それは、収集される廃棄物の中にどうしても引火性のあるガスや電池など、火災の原因となるものが混じってしまうから、というのが関係者の共通認識のようです。特に自動車は、以前のような内燃機関を積んだ車両という概念から、車両に乗った電子機器と呼んだ方が良いほどの変貌を遂げています。

電池も、PHVやEVなど駆動系に使われるものに加えてエアコンや音響機器、GPS他のユーティリティに組み込まれた電池が沢山あること、さらにこれらを一元的に把握できる資料がない(!)という現実が重なって、一旦廃車となるときに誰がどのように電池を外して火災が起きないようにするか、という部分が大変難しい工程となって立ちふさがるのです。

自動車メーカーとしては、駆動系の電池や純正品についてはある程度責任を持てると思いますが、購入後にオーナーが搭載したカーステレオ、テレビ、GPSなどについている電池は守備範囲外とならざるを得ません。ましてや中古車として複数オーナーの手を経ている車体は「どこに、どんな電池が入っているか」だれにも分からない状態で廃車になるわけです。

これは、そういう技術を持っている会社がいるとしたらまさに商機だと思われるのですが、微弱な電流を感知するなどして、電池を発見し取り除ける技術があったなら、その市場はおそらく全世界に広がるであろう、ということが言えます。

折しもCASEすなわちインターネットへの接続(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Sharing)、電動化(Electric)という革命的なテーマへの対応が進み、クルマは発明以来最大の転機を迎えています。さらに廃車後の安全な処分もCircular Economyという文脈における革新的な取り組みとして評価されるようになるでしょう。この商機を逃さずに勝負したいという企業があれば、当社が全面的にサポートさせていただきます。

明日の自動車社会を切り開くのは私たちだ、そういう気概を持った企業にこそ、市場の門は開かれるのです。

2019.07.22

静脈流通というビジネス

 このところ、サーキュラーエコノミーという概念について業界関係者と意見交換する機会が増えています。関連するシンポジウムや会議などが続いているせいかもしれません。その中で、現場にいる方のご指摘として私が「なるほど」と思ったのが、「廃棄物になったとたん、流通は規制される」というご指摘でした。これは何を意味するのでしょうか?

 将来、いわゆるエコデザインが深化して、製品寿命を終えた家電製品の部品がそのまま再利用される機会が増えたと仮定します。そうした場合、家庭から引き取られた廃家電は現状だと廃棄物となり、その収集と運搬には行政の許認可が必要となります。この段階では「流通」という概念は存在しておりません。

解体作業の現場で回収される再利用部品については、その時点で再度有価であることを現認する手続きが必要となるはずで、その後再び市場へと戻される理屈になるのですが、この部分における流通の仕組みは、まだほとんど整備されていないのが現状です。

 また、廃棄されたものの中にもそのまま有価で市場に出回る個体が増えてくることが予想されますが、古物商に関する法律が規定する通り、警察の許可を得た事業者でないとこれらを取り扱うことができません。この分野には地域や品目によって確立された流通ネットワークが存在していますが、流通データが即時性を持って経済観察に活用される動脈系の近代的流通とは異なり、まだデータ活用が進んでいないのが現状です。

 ここに一つのビジネスチャンスがあり、サーキュラーエコノミーへの取り組みが進んでゆく中で、どのように流通を再設計するかという切り口があるはずです。たとえば産廃の収集・運搬に関しては、いわゆる電子マニフェストが業務の合理化に大きな役割を果たしていますので、このインフラを拡大的に活用することで生まれるビジネスは小さくないでしょう。すでに業界では先行的な研究も始まっているようです。

 このようにして「静脈流通」みたいな概念が広まってくると、たとえば廃棄物そのものの価値を如何に上げるか?という取り組みもビジネスになってくる可能性があります。モノを大事に使う、傷をつけない、劣化させないなどの工夫がそれにあたります。この部分は伝統的に日本文化が得意としてきたところだと思います。

たとえばドアノブにカバーをつける、などの習慣がいまだに生きていることをあちこちで目撃しますが、これなどもそういった文化の表れだと思います。丁寧に掃除をする、きちんと片付ける、清潔を保つ・・どこかで聞いたようなお話ですが、これは生産現場における「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字を取ったもの)」の考え方と同じなのです。

 “静脈流通”なるビジネス分野が成立し、それが上手く機能するためには、どうやらものづくり日本が得意としてきた手法が活用できそうだ、今日のコラムはそんなインサイトを結論としてお届けしたいと思います。

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