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コラム

2019.10.01

人工肉とビジネスチャンス

 このコラムの読者にも、ごく最近の話として人工肉の話題に触れたことのある方が増えてきているかもしれません。実際にアメリカではBurger Kingがこの8月からImpossible Foodsという会社が売り出した人工のミートパテを使ったImpossible Whopperという商品を売り出してちょっとしたブームになっていますし、Beyond Meatというスタートアップが売り出したBeyond Burgerも大きな話題になっているのだそうです。

 環境ビジネスコンサルタントの私がいきなり人工肉ハンバーガーの話題を始めると、「ついに西田もネタ切れか?」と思われる向きがあるかもしれません。実際は全く違いまして、先ごろスウェーデンの女子高校生が切れ味鋭い演説で世界の耳目を集めた気候変動サミットでも注目された、温室効果ガス削減に関する大きな可能性の一つが食肉供給であることによるものです。

 世界で排出されている温室効果ガスのうち、およそ15%は畜産業によるものであるという統計は、特に日本ではあんまり関係ないと思われているかもしれません。でも、たとえばアメリカでは毎年240万頭もの牛が食肉加工用に出荷されているのだそうです。この牛が出すゲップが温暖化に及ぼす影響がバカにならないのです。そこで今注目されている技術が人工肉、すなわち植物を肉に似た素材へと加工する技術なのです。

 アメリカでは環境対策というよりむしろ健康志向の人を中心として売り上げが伸びているそうですが、仮に食糧生産の見直しで温室効果ガスの削減ができるとしたら、そこには一定の市場評価がついて回るのではないかということは申し上げられます。

 具体的には社会的インパクト投資が評価する基準、たとえばTCFD(The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の求める基準を満たす企業行動として評価されるものなので、マクドナルドやバーガーキングなどの大手は特に、投資家に対する意識から温室効果ガス削減につながる取り組みとして選好的に採用を増やすのではないか(あくまで「売れれば」という条件が付きますが)と思われるわけです。

 だとしたら、旨味の調整や味付けなど、日本企業が得意とする部分で市場開拓の可能性があるのではないでしょうか?なにせカニカマではほぼ本物、みたいな商品を作ってしまった国ですので、日本企業にとって「ほぼ牛肉」みたいな味付けを考えることは十八番ではないかと思うのです。

 現状、アメリカの人工肉は味の面で「それなりの」評価を得てはいるようですが、食べ始めに「本物の肉みたい」と思っても、食べ終わるころには「やっぱり違う」と言われる程度の差がまだ克服できずにいるようです。この隙間にこそ日本の技術が入れるチャンスがあるのではないか?私はそんな風にマーケットを見つめているのですが。

2019.09.24

サーキュラーエコノミーとビジネスチャンス

 このところ私は自己紹介のとき、「環境ビジネスコンサルタントです。最近はサーキュラーエコノミーに注目しています。」と言うようにしています。
そうすると、決まって
「サーキュラーエコノミーって、リサイクルの事でしょ?」
と問い返しをいただきます。

ここ2年ほど、さまざまな場面で似たような質問を頂いてまいりました。完全に間違っているとは言えませんし、現象的にはほぼ合っているので、「そうですけど、思想的な背景が少し違うんですよ。」とお応えしています。

そうならそれでいいじゃん、なんでわざわざカタカナを使うんだろう?なんだかややこしい奴だな、多分そんな風に思われているのではないかと思いつつも、これまでのリサイクルとは思想的にかなり違いのあるアプローチなので、その点に触れようとするとどうしても「サーキュラーエコノミー」という括りでお話をせざるを得ないのです。

その理由のうち、最大のものは「今までのリサイクルは、結局資源消費経済であるリニアエコノミーにとって、延命策の一つに過ぎない」というものです。主に地下から産出されるさまざまな鉱物資源が精製・加工されて投入される経済は、消費された資源が最終的には廃棄されるという一直線(リニア)な流れから形成されています。

どんな国でもこの経済を長く続けると、やがて廃棄物処理が社会の課題となることは構造的に明らかです。アメリカやオーストラリアのように広大な土地がある国であれば、他国に比べて長い時間的余裕を持つことができますが、それとて根本的な課題解決にはなっていないと言わざるを得ません。その中で、少しでも廃棄物処理の負荷を減らすための対策として振興されたのがリサイクル、そして3R(リデュース・リユース・リサイクル)という考え方だったわけです。日本では特に、「ごみの減容化による最終処分場の延命措置」とされてきました。

これに対してサーキュラーエコノミーとは、経済の仕組みそのものを資源投入→消費→廃棄という流れから、既存資源の循環活用へと変えて行こうとする取り組みの事で、根本的な思想に大きな違いがあるのです。

基本的には新たな地下資源の採掘をなるべく当てにしない、という考え方なので、使用済みの資源すなわち廃棄物に近い対象物からいかにしてバージン材に近い仕様を再生できるか、という技術的なソリューションの成否が第一のカギになります。

価格的に競争力を持てるようなら、この技術そのものを切り売りするビジネスモデルも成り立ちうるかもしれません。ただ、今回提案したいと考えているのはそのソリューションを核にした新しいビジネスの仕組みを考えてみませんか?ということなのです。

再生材は、バージン材に比べるとどうしても仕様面で劣後しがちなことに加えて、思ったほど安くないこと、供給が安定しづらいことなどから、細々とリサイクルされては限られた市場に再投入されていた、というのがこれまでの展開でした。

この状況について、もしも技術的なブレークスルーを実現できれば、バージン材に比べて環境負荷の少ない再生材を主原料として市場投入することができるのではないか、そうすることによって地球の持続可能性はぐっと高まるのではないか、というのが「サーキュラーエコノミー」の考え方なのです。

今仮に、価格的にも安く、安定的な供給量を満たしながら、バージン材とそん色ない仕様の再生材を提供できるようになったとしましょう。世の中には、その技術を投入しただけで新しく広がる市場もあるかもしれませんが、せっかくそんな再生材を提供できるのであれば、もう少し気合を入れたビジネスモデルを作るほうが良いですよね、というのが私の提案です。

具体的には、環境負荷が少ないこと、持続可能性に資するビジネスであること、そのような原材料の活用はSDGsに貢献するものであることなどを、協議会的な仕組みで取引先と共有できるようにすべし、というものです。

なにせ世の中は、リニアエコノミーを前提とした仕組みがしっかりと出来上がっているので、そうでもしないとサーキュラーエコノミーへの乗り換えが加速するとは限らないのです。またそうだとすると、サプライチェーンのあり方そのものから少し手を入れてゆく取り組みが必要になってくるだろう、ということですね。

バージン材に比べて価格面・品質面・供給面で競争力のある再生材を世に送り出す。チャレンジのためのハードルは低くありません。でも、たとえば品質面の基準値を少し下げた市場を相応の価格で確保できるなら間違いなく脈ありにできる話だろうと、私はそんなふうに考えているのですが。

2019.09.18

環境ビジネスにとっての儲けどころとは

 ここ最近、SDGsすなわち「2030年のための持続可能な開発目標」などへの関心が高まっていることと合わせ、金融業界ではESG投資、あるいはESG金融と呼ばれる手法に注目が集まっています。中身的にもよく似た要素を持つこれらの新しい考え方にはどのような特徴があるのでしょうか?そして環境ビジネスにとってはどのような影響があるのでしょうか?

既にご存知の方も多いかもしれませんが、ESGとはEnvironment, Social and Governanceの頭文字を取った略語で、企業が環境・社会・ガバナンス(企業統治)に配慮した中身について、証券アナリストなどがいわゆる「非財務情報」を勘案し、投資政策の参考にするというものです。従って、ESG投資とは従来の財務情報に加えて、ESG関連の非財務情報を併せて投資先を決定する、という手法であると捉えていただいて間違いありません。銀行融資を加えて考えると「ESG金融」ということになります。

企業がESGのうちの「E:環境」に配慮することになれば、当然ですが環境ビジネスを手掛ける企業にとっては積極的なビジネスチャンスが増えると思われます。特に環境負荷を低減させるための省エネ技術や代替原料などの導入にはより多くの機会が訪れるでしょう。

「S:社会」についてもある程度同じような効果が期待できるかもしれませんが、こちらはたとえば地域社会との共生・ネットワーク醸成など関係づくりや従業員の健康管理(いわゆる健康経営)などが中心となるので、環境ファクターそのものに比べると直接的な意味での事業機会は多くないかもしれません。それでも例えば地域とのパートナーシップに基づく環境美化や学校教育事業への参画などの場面では、環境につながる活動が取り上げられる機会もあったりするので、機会を広げる意味においてどのような取り組みがなされているのか、是非とも注視頂きたいものだと思います。

さて、問題はGovernanceすなわち「G:企業統治」についての話ですが、EやSが積極的な評価につながる項目であることに対し、Gはどちらかというと問題回避型の取り組みに対する評価項目が多くなるという違いがあります。「まさか〇〇のようなことはないだろうね」、と言ったネガティブスクリーン的な視点に立ったチェック項目がどうしても多くなりがちなのです。

環境ビジネスの中でも廃棄物関連の仕事をしていると、立場上この点がよく見えてしまうという話を聞かされることがあります。捜査に当たる刑事の視点に似ているのですが、「廃棄物を見ればその企業が何をやっているかがよく分かる」ということですね。事業系一般廃棄物であれば廃棄前の分別がどの程度なされているかによって社内の規律順守度合いが解り、産業廃棄物でも食品系の廃棄物であれば品質管理面の状況がつぶさに解る、というような・・。

いささか誇張した例として、特定の事案ではありませんが、たとえば食品加工の工場からカビのたくさん生えた原材料が廃棄されていて、廃棄物処理事業者からそのような情報がもたらされたとなると、潜在的にとても大きなリスクを抱えている危険性があると言われても仕方ないと思います。

他方で世の中には、新しい技術や製品の開発、市場拡大の取り組みなどについて、前向きなガバナンスの成果として評価する視点があることも忘れてはならないと思います。このような動きは、単に廃棄物の中身を見たからわかるというものではないかもしれませんが、たとえば「これまでよりも試薬のケースが格段に多く廃棄されている」「研究開発棟から出される廃棄物の量が多くなった」などの変化があれば、社内で何か前向きな対応が取られている気配を感じられるのではないかと思われます。

そういう意味では、ESG投資を担当する証券会社のアナリストが、産廃処理事業者の持っている情報を欲しがる場面というのが多分出てくるだろうと、いやもしかしたらすでにそのような検討や試行が、始まっていてもおかしくないと、裏付けはありませんが単なる当て推量以上の自信を持って言えるわけです。

廃棄物事業者がこの新しい動きを正真正銘のビジネスチャンスへと高めてゆくためには、信頼できる情報を積極的に開示する仕組みが必要になってくるのではないかと思います。ある程度公的な色彩を帯びたそのような仕組みがあれば、企業も安心して産廃処理を委託でき、証券アナリストも自信を持ってその情報を活用できるようになるのではないでしょうか。

世界には、まだ廃棄物分野のこのようなサービスで金融分野が裨益しているという事例はないと思います。私がこんなことを言えるのも、他国に比べて廃棄物の適正処理が全国的に広く普及している日本ならではの話であり、その意味で日本がこの流れを捉えた取り組みを始めるなら今ではないか、とも思えるのですが。

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