自動車産業を襲うCASEの激震に象徴されるように、現代のビジネス環境はこれまで以上にダイナミック且つめまぐるしく変化しようとしています。環境ビジネスにも新たな規格や認証制度への対応、SDGsや気候変動対策への取り組みなど、かつてないスピードで変化の波が押し寄せています。
この先は間違いなく、これまで企業が築き上げてきた仕組みや考え方だけでは変化に対応しきれなくなってきます。普通に新卒を採用して、育てていたのでは時間的に間に合わないどころか、時代の要請に応えきれなくなることは火を見るよりも明らかです。
「いったい、どうすれば良いんでしょうか?」企業経営者でなくても、そう尋ねたくなる場面です。コンサルタントとして私は「明日のビジネスこそ、人で決まります。優秀な若者に選んでもらえる会社になってください。」と申し上げています。ではどうすれば若い人に選ばれるようになるのか、そのポイントは3つあります。
一つ目は、手持ち現金が潤沢なこと。変化に対応するための新規投資を考える原資となるからです。業種にもよりますが、製造業の場合なら総資産に占める現預金比率が少なくとも10%以上でかつ安定していることが求められます。
二つ目はその現金が増える方向にあること。これは営業キャッシュフローマージンを見ればわかります。よく投資家に選んでもらうためには15%以上確保すべきなどと言いますが、変化に備えて新しい人を採るなら、新規投資の拡張拡大にも備えるべきでしょう。その意味で、できれば25%以上を確保したいところです。
しかしながら、これらの財務的な裏付けより即効性があり、新しい人に選んでもらえる可能性がぐっと高くなるのが「経営理念を鍛錬すること」です。経営理念の明示化は特に最近様々な機会で強く言われるようになってきた点だと思います。
では鍛錬とは何か?刀鍛冶が熱した鋼を金槌でひたすら叩き、曲げ、折り重ねてまた叩くように、額縁に入れられた経営理念をさまざまな環境の変化に照らし合わせ、それをどのように判断するかを旗幟鮮明にし続けること、なのです。
たとえば、パリ協定は会社の経営理念から見てどうなのか。あるいはSDGsを会社は経営理念との関係でどう評価するのか。評価の次元軸は、経営理念そのもので全く構いません。企業規模の大小にかかわりなく、経営者が自らのアタマと心で判断する、というスタンスが重要です。たとえそれが国連の決めたものであろうと、臆する必要はありません。堂々と、経営理念に照らし合わせたうえで会社としての判断を下してください。
鍛錬の場は、メディアでもセミナーでも、あるいはSNSでも構いません。会社のウェブサイトを丹念にアップデート出来ればそれも効果的だと思います。とにかく積極的な情報発信を、経営理念との紐付けで「これでもか」と思われるほど実施してください。
発信するものは、部長の個人的な雑感でも、若手の個人としてのつぶやきでもダメで、判断基準が経営者自身の考え方に沿ったものであること、が最低守られるべき一線です。そしてそのために最も適しているのが経営理念の参照なのです。これであれば、社内報の原稿を書く部課長でもウェブサイトをメンテする若手社員でも、しっかりと経営者の考えを代弁する拠り所になるのです。ぜひ毎日欠かさず情報発信の中で参照したり、関連するさまざまな出来事に合わせて会社の考えを訴え続けてください。私はこのプロセスのことを「経営理念の鍛錬」と呼んでいます。
優秀な学生や若手ビジネスマンに選んでもらおうとするならば、彼らの心の琴線に触れる考え方を提供できることが第一条件になります。この人手不足の世の中だからこそ、彼らは彼らの関心事にもっとも近い会社を選ぼうとしているのです。それを最も納得的に明示できるのが、「社会の動きと経営理念を照らし合わせ、それを会社としてどう評価するか」という情報の発信なのです。
それが学生であっても中途入社人材であっても、優秀な人間は必ずと言ってよいほど視線を高く保っています。勉強も良くしているので、今から先の社会が何を求めるか、それをどう実現できるかと言う議論にはしっかりと耳慣らしができています。彼らが最も知りたいことは、今から自分が入るかもしれない会社は、自分たちの関心事にどのようなスタンスで臨んでいるのか?という一点に尽きると言っても過言ではありません。
優秀な人間に選ばれる努力こそが、明日のビジネスを成功につなげるカギなのです。あなたの会社でもぜひ、優秀な人材の採用を成功させてください。