最近、SDGsを通じて企業が取り組む社会善のあり方を議論する若手ビジネスマンの会合に参加する機会がありました。参加メンバーには、有名大企業から中小企業までさまざまな業種・企業規模の会社の方がいらしたのですが、そこで気づかされたのは、そのような集まりが盛んになる背景には、業種や企業規模に関わらず今の若い世代が共通して持っている社会善への強い関心が底流にあるということでした。
聞けば、今の30代中盤の方々は、京都議定書が採択された1997年当時はまだ小中学生ながら、社会が取り組むべき環境対策については学校教育を通じてじっくりと考えさせられる機会があったのだそうです。具体的課題としての気候変動に関する学習は、さらに広い視点を持つことへの関心を呼び起こすきっかけになったに違いありません。
昭和に育った私たちの時代には公害対策についての授業くらいで、社会問題の解決についての視点は学んだものの、そこから先に議論を膨らませて社会善の方向性について学ぶというところまでには至っていなかったように思います。
世の中がすべてこのように意識高い系の若手ばかりではない、というご指摘は覚悟のうえで、今日はこの変化の流れに注目してみたいと思います。会合で紹介があった事例は、某有名進学塾が中学入試問題の中からSDGsに関するものを選り分けて問題集を出している、というものだったのですが、ちょうど中学受験を控えた子供たちの保護者が30代ということを併せて考えると、親を対象にした受験対策プロモーションとしては卓越した目の付け所だと思います。
具体的な例を挙げてみましょう。
以下は西武学園文理中学校の入試問題です。これが12歳の子供に対する問いかけだと認識して読んでみてください。
『「働く」ということについて次の文章を読み、あとの問に答えなさい。
かつてあるイギリスの経済学者は、「将来は一人が一週間に15時間働けば十分な世の中になる」と言いました。また、生活を送るために十分なおカネを全員に与える「ベーシックインカム」という取り組みを実験的に行った地域もあります。さらに「AI(人工知能)の発達によって不要になる職業」も最近話題となりました。このように考えると、「人が働くのは当たり前」という考え方自体が大きく変わるのかもしれません。」
問、働かなくても生活をするために十分なお金が国からもらえるとしたら、あなたは働きますか?働きませんか?どちらか一方を選んだ上で、その理由を具体的に答えなさい。』
(日能研:「SDGs 中学入試問題から見る2018年の変化」より)
そういう受験問題を解かされて育つ世代が社会人になる時代に、企業が提供すべき社会善はどのような形で、どんなビジネスチャンスが生まれることになるのか?
ベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社』の著者である法政大学の坂本光司先生は、仏教の僧侶から学んだ話として「幸福とは①人に愛されること、②人にほめられること、③人の役に立つこと、④人に必要とされることです。この三つの幸福(②、③、④)は、働くことによって得られるのです。」と述べられています。
SDGsでは、ゴール8のDecent Work(やりがいのある仕事)がこれに当たると思うのですが、坂本先生の言う「働くこと」と、お金のために「働く」は、ちょっと意味や範囲が違うような気もします。いずれにしても、全員ではないにしろ12歳でこのような問題を考えた人材が、今から10年後の日本ではごく普通に社会人になる、ということを、私たちは肝に据えておくべきなのだろうと思います。
今から10年後に、かつてなかった変化からビジネスチャンスを先読みしようとするならば、中学入試問題を見ておくというのは意外と悪くない将来予測かもしれません。