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2019.07.22

静脈流通というビジネス

 このところ、サーキュラーエコノミーという概念について業界関係者と意見交換する機会が増えています。関連するシンポジウムや会議などが続いているせいかもしれません。その中で、現場にいる方のご指摘として私が「なるほど」と思ったのが、「廃棄物になったとたん、流通は規制される」というご指摘でした。これは何を意味するのでしょうか?

 将来、いわゆるエコデザインが深化して、製品寿命を終えた家電製品の部品がそのまま再利用される機会が増えたと仮定します。そうした場合、家庭から引き取られた廃家電は現状だと廃棄物となり、その収集と運搬には行政の許認可が必要となります。この段階では「流通」という概念は存在しておりません。

解体作業の現場で回収される再利用部品については、その時点で再度有価であることを現認する手続きが必要となるはずで、その後再び市場へと戻される理屈になるのですが、この部分における流通の仕組みは、まだほとんど整備されていないのが現状です。

 また、廃棄されたものの中にもそのまま有価で市場に出回る個体が増えてくることが予想されますが、古物商に関する法律が規定する通り、警察の許可を得た事業者でないとこれらを取り扱うことができません。この分野には地域や品目によって確立された流通ネットワークが存在していますが、流通データが即時性を持って経済観察に活用される動脈系の近代的流通とは異なり、まだデータ活用が進んでいないのが現状です。

 ここに一つのビジネスチャンスがあり、サーキュラーエコノミーへの取り組みが進んでゆく中で、どのように流通を再設計するかという切り口があるはずです。たとえば産廃の収集・運搬に関しては、いわゆる電子マニフェストが業務の合理化に大きな役割を果たしていますので、このインフラを拡大的に活用することで生まれるビジネスは小さくないでしょう。すでに業界では先行的な研究も始まっているようです。

 このようにして「静脈流通」みたいな概念が広まってくると、たとえば廃棄物そのものの価値を如何に上げるか?という取り組みもビジネスになってくる可能性があります。モノを大事に使う、傷をつけない、劣化させないなどの工夫がそれにあたります。この部分は伝統的に日本文化が得意としてきたところだと思います。

たとえばドアノブにカバーをつける、などの習慣がいまだに生きていることをあちこちで目撃しますが、これなどもそういった文化の表れだと思います。丁寧に掃除をする、きちんと片付ける、清潔を保つ・・どこかで聞いたようなお話ですが、これは生産現場における「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字を取ったもの)」の考え方と同じなのです。

 “静脈流通”なるビジネス分野が成立し、それが上手く機能するためには、どうやらものづくり日本が得意としてきた手法が活用できそうだ、今日のコラムはそんなインサイトを結論としてお届けしたいと思います。

2019.07.15

The Economist誌が伝える上海のゴミ対策とは

2019年7月5日号のイギリスの週刊誌The Economistは、Chinaのページに今年7月から上海市が導入したゴミの分別に関わる記事を載せています。中国人がゴミの分別をする、という話に時代の移り変わりを感じるのは私だけではないと思います。

それでも、まずは記事が何を伝えたのかについて追ってゆくと、さまざまな情報が目に飛び込んできます。まず、上海市で一年間に排出されるごみの量が900万トンを超えるのだそうで、これはロンドンよりも多いのだとか。

人口については上海が26百万、ロンドンはせいぜい1千万いるかどうかだと思うので、これは比較対象としてどうなの?と思わなくもありません。ちなみに東京の人口も約1千万人、なのに東京都全体で排出されるごみは年間450万トンくらい、人口で上海の2/5、ごみの発生量で1/6ということになります。

そのゴミについて、まさに今年7月から上海では4種に分別することが義務付けられたのだそうです。その内訳は、①食品、②リサイクルできるゴミ、③乾燥したもの、④有害廃棄物だそうで、分別間違いがあると3000円くらいの罰金も科される厳しい規制だそうです。どの区分に入れて良いか分からないものについては、携帯のアプリがあって、それでゴミの写真を撮影すると正しい区分を教えてくれるのだとか。

The Economistが参照する数字によると、なにせ上海では割りばしだけで年間800億膳も消費されるのだそうで、これで動く廃棄物の量も半端なものではないと思います。もしこの制度が上手く行けば、上海は他の町のモデルになる予定なのだそうです。でもいきなり今までやってこなかった分別を・・って、果たしてうまく行くのでしょうか?

罰金をかけても分別をさぼる人には、政府が個人を特定し、ネットのクレジット情報にチェックを入れるのだそうです。そうすると、たとえばその人は電車の切符の予約などが取れにくくなるのだとか(さすが監視社会!)。そこまでやるか、とも思わされる話ですが、中国らしいと言えばそうかもしれません。

そのくらい厳しくやることで、かの国の政府は民衆の行動変容を促そうとしている、ということのようです。急ぎ動くことは重要ですが、同時に組織の中には大きなストレスを生じさせます。社会がそれに耐えられるのか?これが壮大な実験であるように私には見えます。

規制による急激な消費者の行動変容は、必ず大きな社会的ストレスを伴います。そしてそれがビジネスチャンスにつながるという現象は、日本社会においても分煙・禁煙の急激な徹底により発生した店舗リフォーム需要や電子タバコの爆発的需要に現れています。果たして上海では何が流行るのか?それが中国市場全体に広がるのか?ここしばらく、上海の静脈ビジネスに注目です。

2019.07.09

分別か、そうでないかの境目とは

廃棄物リサイクルの世界では良く「捨てればゴミ、分ければ資源」といいます(今でも教育現場では子供たちに対してそう教えます)。確かにある程度の分別とリサイクルは、特に高度経済成長の時代には資源の消費一辺倒だった経済の流れを見直し、社会の持続性を高めることに役立つ取組みだったと思います。

他方で、特にプラスチック類についてはどこまで分別すれば良いのか、どこまでリサイクルすべきかという議論についてなかなか決め手がないまま、観念的にリサイクルが議論されているのが現状ではないでしょうか。

先日長野県で開催されたG20のエネルギー転換・環境閣僚会合で議論された海洋プラスチック汚染に関する問題についてもそうですが、不法投棄を抑止するための対策として確かにリサイクルは有効な施策の一つであるはずなのですが、ことプラスチックについて言うと、現実問題はそう簡単ではありません。

一口にプラスチックと言っても実は多種多様な素材があり、柔らかくて軽いポリエチレン、絶縁性はあるが強度のないポリスチレン、熱や引っ張りに強いポリプロピレンなどの汎用素材に加えて、強度に優れたポリカーボネート、透明にできないが強度はあるポリアセタール、薄くても強度があるポリエチレンテレフタレート(PET)など工業用のいわゆるエンプラ素材など、私たちが日常的に接するものでも十指に余るバリエーションがあります。

更にこれらの素材には、他のプラスチックと混合して使われる例もあるのですが、そうなるとそれぞれの強度や熱に対する特性が違ってくるため、どのようにリサイクル加工すれば良いのかが皆目わからないということにつながります。たとえばPETボトルならそれだけを集めればまだ何とかなるのですが、その他のプラスチックについては一緒くたに取り扱われており、品種ごとにリサイクル商材としての価値とボリュームを安定的に確保できるだけの収集・運搬のためのメカニズム、いわゆる静脈流通が整備されていないのが現状です。

他方でプラスチック素材はいずれも石油化学由来の製品であり、成分的に燃えにくいものや難燃加工を施したものを除けば、基本的には燃えるものばかりなので、ごみ発電のカロリーを確保するためには皆優秀な燃料になってくれます。

ごみ発電といっても焼却処分ですから、その工程でCO2が排出されるという課題はあるのですが、たとえば将来プラスチックが使われなくなって、それまでプラスチックごみのおかげで円滑に運転されていた焼却工場の投入カロリーが減ると、発電プロセスにマイナスの影響が出るという懸念は残ります。

各地のごみ焼却施設では、ただでさえ人口減少に伴って余剰能力が発生しつつあるので、これ以上投入カロリーが減らされることについての問題はしっかり議論される必要があるのです。

このような状況に置いて、私たちが望みうる最適解はどのようなものなのでしょうか?私は「将来ビジョンを持ち、それを議論しながら進めてゆくこと」ではないかと考えます。たとえば、「プラスチックリサイクルを20年かけて経済的に成り立つものにする、それまではゴミ発電の投入材料として最大限活用する」みたいなビジョンです。

リサイクルが経済的に成り立つためのボリューム確保をモニタリングする、分別前の洗浄や乾燥にかかるコストに加え、ゴミ発電に回す場合のCO2発生を計算する、そういった情報をデータで解決するような時代が来るのももうすぐだとは思うのですが、まだ社会で仕組みとして実装されていない以上、ある程度割り切った考え方を整理して、その実践を以て最適解に替えざるをえないのが現状なのです。

20年、という時間枠が果たして正しいのか?については誰も何も言えない話だと思うので、そうだとするなら後は大人の責任で政治が決める、みたいな取り組みでも仕方ないだろうと思うわけです。でもそうやって、方向性を決めればビジネスのネタはついてくる。そういう開拓者精神こそが、環境ビジネスの明日を切り開くために求められているのです。

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