東南アジアの国々がエビを養殖して、それを日本が輸入しているという話はよく知られていると思います。スーパーで冷凍食品として売られているブラックタイガーなどのエビの多くは、産地の標記を見るとベトナムやインドネシアなど、東南アジアの国が記されています。なぜこれらのエビは東南アジア産なのでしょうか?
これらの国々でかつて行われていたのが、岸辺のマングローブ林を伐採し、エビの養殖池を造成したうえで、高密度養殖と言って一度にたくさんのエビを養殖し、コストを下げて早期に投資回収を図るという養殖ビジネスです。それまでの養殖法に比べて圧倒的なコスト競争力を持つため、市場では一気に東南アジア諸国が幅を利かせるようになった、ということです。
この方法はエビを高密度で育てるため病気が発生しやすく、それを押さえるために抗生物質なども併せて投与されていたということですが、しばらく使っていると養殖池自体がエビの排せつ物やエサの残り、投入された薬剤などで環境が悪化して使えなくなり、近隣のマングローブ林を伐採してはまた新たな養殖池を造成するという悪循環が続いていたのだそうです。
近年、生物多様性保全の観点からマングローブ林が再生され、それと合わせてマングローブ林の中にエビ養殖のための水路が作られ、そこにマングローブの葉が落ちて微生物に分解され、発生するプランクトンをエサとしてエビが育つ、というような循環型のモデルも実践されはじめているようです。
エビの養殖があってもなくても、再生されたマングローブ林は、気候変動による海面上昇や大型台風による被害を緩和する働きがあって、その意味で気候変動対策としては一定の効果を持つ取組であると言えます。
ところが、この再生マングローブ林は厳密な意味での「再生」になっていないという批判があるのだそうです。どういうことかというと、伐採される前のマングローブ林にはさまざまな樹種が混在していたのだそうですが、植林を進める上で同じような樹種混合林を目指すとどうしてもコストが高くなるということ。単一樹種でも防災林の役目は果たしてくれるそうで、だとすると同じコストをかけるなら、循環型のエビ養殖を取り入れて、その対価でコスト回収ができるようにしたほうが持続性は高まるのではないか、という議論があるわけです。
いやいや、生物多様性保全の観点から言えば、本来自生していた複数の樹種を取り入れてこそ、マングローブ林のあるべき姿が実現できるのだ、という議論もあるわけです。果たして私たちが目指すべきなのは、原生の生物多様性を極力保全・再生するということなのか、あるいは温暖化対策としてのマングローブ林保全(単一樹種)を低コストで実現するということなのか、もしくは循環型のエビ養殖と組み合わせて、環境にやさしい養殖エビを市場に投入することなのか。
いわゆるサーキュラーエコノミー(CE)を追求するならば、循環型エビ養殖が良いように見えますが、CEが生物多様性保全に優先するなどという取り決めはどこにも存在しないわけです。国連が提唱するSDGsでも、生物多様性保全を求めるゴール14・ゴール15と、温暖化対策を求めるゴール13、そして循環型経済を進めようとするゴール12の間に優劣関係はありません。
ところがこの場合、ひとつの対象事案について言えばこれらは確実に排他的な選択肢です。その場合、最終的な選択肢がどのようにして選ばれるのか。どのような結論になるにしても、決定プロセスに透明性が求められることには間違いなさそうですね。「説明責任」という視点から、環境ビジネスが配慮を求められるべきポイントだと思います。