環境ビジネスの業界では最近、何かと基準認証の話が流行っています。つい最近はイギリスのNGOであるCDPが、世界の大企業を気候変動対策への対応度によって格付けしたリストを発表し、日本からは約40社がAランクに入ったことがちょっとしたニュースになりました。基準認証とはいったい何で、どういう働きをするのでしょうか?
環境ビジネスに止まらず、何か世の中に良いことをしている人たちにアドバンテージを与えたいというような場合、基準認証は便利な道具になります。身近なところでは、運転免許がゴールドだと自動車保険が安くなる、といった例があります。環境に良いことをしている会社には、それだけ簡単な手続きで商売に参加出来たり、優先的に注文が入ったりするように仕向けられるわけです。
基準認証には、①ISO14000のように自分から進んで取りに行くもの。おカネも時間もかかる、②ミシュランの☆のように黙っていてもつけてくれるもの。でも選ばれる側に意見を言う権利は基本的に存在しない、等がありますが、上で触れたCDP認証の場合は、会社が行っている気候変動対策について、NGOであるCDPから送られた質問票に回答するとその内容によって格付けがされるというものです。
格付けの結果はビジネスに直結する要素でもあるので、公正中立を守る意味でCDPは営利団体ではないNGOという体裁を取っています(実態は投資家向けの格付け機関だと言っておかしなところはないと思います)。これ以外にも、たとえば持続可能な森林保全に貢献するFSCなどは、基準を作る団体と認証機関を認証する団体が別個になっていたりします。そうすることで、基準認証の透明性を担保しようとしているのです。
世界では、環境保全への関心が高まるのとほぼ同時に基準認証へのニーズも高まってきています。理由は単純で、サプライチェーン管理にとても便利なツールだからです。東京オリンピックでも、調達規則の中に「認証を取っていること」と定められている部分が多いそうです。木材であればFSCやRSPO(持続可能な油椰子)認証、水産資源であればASCやMSCと呼ばれる認証が良く知られています。これらを取得することで、信頼できる納入事業者としてサプライチェーンに食い込める可能性が出てくるわけです。むろん、おカネも準備のための時間もかかりますが。
今回なぜ基準認証の話をするかと言うと実は今、世界がどんどん基準認証を求める方向へと動いているからです。EUでは、地球温暖化を巡る「EUタクソノミー」という基準を作って、CO2排出に貢献すると認めるための基準値を全ての産業に対して導入しようとしています。具体的には、炭素鋼1トンを作るとき、約300㎏くらいのCO2までなら排出しても良しとするが、それ以上排出する製鐵所は、たとえ環境に貢献する実績があったとしてもタクソノミー上は不合格とされてしまう、というようなものです。
電気炉は高炉に比べてCO2排出量が少ない、というのはだいぶホントらしく聞こえますが、だったら電気炉はすべて良いのか?という根源的な疑問に答えようとするのがタクソノミーの考え方です。仮に、鉄1トン作るために400㎏くらいCO2を排出する電気炉の製鐵所があったとすると、タクソノミー上は不合格となり、電気炉なのに環境への貢献は不十分、ということになってしまうのです。
EUは、このタクソノミーを全ての産業に当てはめる前提で準備を始めています。昨年までならスルーできるパターンが多かったと思いますが、今後特に海外市場への展開を志向する会社にとっては抜き差しならぬ事態へと進んで行くとも考えられます。もしもそのような動きが本格化するのなら、このコラムをお読みの方にはぜひそのチャンスをモノにしてもらいたいと思います。受験生ガンバレ、技術を持った日本企業も、この際だからガンバレー!。