「西田先生、ぜひ当社でも学生インターンを受け入れたいのですが。」最近、よくこんなご相談を受けるようになりました。聞いてみると、若年層の人材不足が深刻化していることに加え、循環経済を巡る世間の目に変化が出てきたと敏感に感じ取っている様子がよく分かります。
他方で環境問題はまだまだ敷居が高いと言われています。ジャケットの襟に虹色の輪っかをつけていても、それが何を意味するのか知っている人はまだ少数にとどまるようです。昨年8月に朝日新聞が東京・神奈川で実施した調査では、国連が定めた「2030年のための持続可能な開発目標:SDGs」について聞いたことがある、と言う人でも全体の3割に満たないという結果が出ていますので、7割強の人はSDGsについて「聞いたこともない」という状態なのです。たとえば地球温暖化でどれだけ災害が発生しても、それは専門家や行政に任せるべき仕事、という考え方がまだ支配的なのかもしれません。
でもここで丁寧に数字を見てゆくと、少し違った景色が見えてきます。たとえば、29歳以下の人だけに限れば認知度は3割を超えており、わずか半年の間に12ポイントも増えていることが分かります。もしもこのペースが続くとするなら、次回の調査で4割を超え、今年の夏には半数以上がSDGsを認知している、という状況になることもありえるのです。
さらに興味深いのは、昨年8月の段階で「管理職」は44%がSDGsを認知していたという数字です。つまり、学生インターンに限って言えば取る方も、受ける方もかなりの確率でSDGsを知っているところから話をスタートできるということです。さきほど「世間の目に変化が出てきた」と言いましたが、これこそが大きなポイントなのです。
意識の高い学生を、対応準備ができた管理職が受け入れる・・人材確保に向けたインターンシップが成功するための最低条件ですが、実はこれだけでは不十分なのです。もうお分かりと思いますが、世間の半数以上が同じことを考えて、同じことを実施するとしたなら、そこには何らの差別性もなくなるからです。無事にインターンシップを終え、内定を出したは良いが最後の最後で入社辞退の連絡が入る、というパターンに陥る危険性は全く排除されていないのです。
ここ最近、循環経済が見直されてきたとは言っても、いまだ5割を超える人が旧態依然たる見方で企業を評価している状態です。学生の父兄や祖父母の年代だと、環境ビジネスに良い印象を持っていない人もかなりいます。就職戦線そのものは売り手市場が続いており、引く手あまたの学生にとってはどれを選ぶか贅沢な悩みに浸る中で、循環経済に携わる企業をどう評価するかがポイントになってきます。
単刀直入に申し上げると、ここで絶対に必要なのは経営者による明示的なコミットメントなのです。企業規模に関わらず、経営者と新入社員候補という一対一の関係を踏まえて、他ならぬ経営者がしっかりと学生の思いを受け止め、自分の言葉でモノを言えるかどうかに尽きるのです。具体的には経営理念と長期ビジョンをその学生と共有できれば、それが他社との明確な違いをもたらします。仮に他社が同じことをやったとしても、他社の経営理念や将来ビジョンが御社と全く同じはずはないからです。そのために使うあなたの時間こそ、未来への投資だと思ってください。それが地方の学生だとしても、インターンシップ参加のための旅費や滞在費などは取るに足らない出費です。
意識の高い学生が入社したくなるような、一緒に30年後の将来を夢見て仕事ができるような、経営者としてのコミットメントをしっかりと磨いて学生に相対してください。経営者が端折らず努力することによってしか、会社の未来は拓けないのです。