このコラムを読んでいただいている方にはなじみ深い話かもしれませんが、環境ビジネスやサーキュラーエコノミーなどで世の中に新しい価値を提供しようとするときに、決まって遭遇するビジネス上の障壁があります。それは単純に「売れない」ということです。この絶望的な課題に、私たちはどう対応すれば良いのでしょうか?
このとき多くの場合は既存の商品やサービスのあるところに環境に良いことを売りにして新規参入を図っているわけですが、たとえどれだけ強いセールスポイントがあっても既存商品が占拠している市場をそのまま奪い取れるかと言われると、残念ながら環境に良いという触れ込みだけでは必ずしも十分ではない、というのが偽らざるところなのです。
ではどうすれば良いのか?答えは単純で、「バリューチェーンを自ら作り上げる」という努力を並行的に行うこと、これだけなのです。では具体的にどうすれば良いのか、について考えて行きたいと思います。
今仮に、品質はまあまあ、価格は安いが安定供給がネック、という再生材があったとします。サーキュラーエコノミーの中核を成す原料リサイクル市場ではごく一般的な話です。日本には石油化学産業(プラスチック系)や非鉄金属精錬(金属系)などの基礎産業が揃っているため、バージン材の供給が大量かつ安定的になされています。再生材のメリットはコストの安さだったりするのですが、現実的にはコストが安い原材料を望むユーザーの多くが量的にも大きなロットを安定供給してほしいニーズを持っているケースが多いです。結局安定供給がネックとなり、せっかくの再生材ビジネスがなかなか伸びないことにつながってしまいます。
このようなビジネス上の課題についてこれまで取り組まれてきたのは、原材料にあたる廃棄物の収集運搬事業者をネットワーク化するサプライチェーンの整備、つまり調達面での努力でした。協力会社の組織化や、行政との対話を通じた支援策の確保など、どちらかというと上流部分に焦点を当てた取組が中心でした。
しかし昨今、世の中は「良いことを歓迎する」考え方に目を向けだしています。現象的には行政や大手企業を中心としたSDGsへの取り組みが象徴的なものです。これを活用しない手はありません。つまり良いことをしたい顧客を組織化してしまう、という取り組みです。できれば「顧客の顧客」まで取り込んで、バリューチェーン全体を一つのプラットフォーム上に囲い込んでしまうというものです。素材提供を問うのですから、まずは部品メーカー、そして機械メーカー、機械ユーザーまでをも視野に入れましょう。そこで何を問うかと言うと。
製造工程でCO2を大量に排出するバージン材は、安価に大量供給してくれる反面で気候変動に負の影響を及ぼしているので、SDGsを推進したい大企業にとっては歓迎せざる側面を持ちます。昨今特に金融界からESG投資に関わるコンプライアンスの強化を求められる中で、大企業各社は具体策への対応が急務となっているのです。
旗印は分かりやすいものであれば「SDGs達成のために」でも、「CO2削減のために」でも構いません。再生材活用協議会みたいな建付けで、まずは情報交換会や勉強会から始めるのが良いでしょう。そこではこれら政策課題について、協議会を通じて御社が何をしたいのか、その考えをメンバー各社としっかり共有してください。しかる後に実際の再生材利活用に向けたユーザーニーズの把握と対応、更には商談拡大へとつなげてゆくのです。
日本経済は長らくバージン材メーカー主導で動いてきた歴史があり、これまで再生材メーカー側が音頭を取ってプラットフォーム形成を進めるという事例はあまり多くありませんでした。その意味で、どこの業界でもバージン材メーカーによるバリューチェーン整備は進んでおり、対抗的に身構えれば巨人を相手に戦うことになります。社会善への取り組みを前面に出すことで対決色を緩和し、さらには共存共栄への道をも拓くことができるのです。