脱炭素時代に情報開示という武器で「選ばれる会社」になる

最近、企業経営者の方とお話ししていると、こんな言葉を耳にする機会が増えました。

「脱炭素への対応は必要だとは思うが、正直どこまでやればいいのか分からない」

「情報開示と言われても、手間ばかり増えるのではないか」

この感覚は、ある意味で自然なものだと思います。なぜなら、多くの議論が「やるべき論」に偏っているからです。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。脱炭素に関する情報開示は、本当に“負担”なのでしょうか。結論から言えば、私はむしろ逆だと考えています。情報開示とは、コストではなく本当は「選ばれる理由を外部に実装する行為」だからです。

この視点に立つと、見える景色が大きく変わります。まず押さえておきたいのは、サプライチェーンの選定基準がすでに変わっているという事実です。これまでであれば、品質・価格・納期。この三点が満たされていれば、一定の評価は得られました。ところが現在は、そこにもう一つの軸が加わっています。

それが「脱炭素」です。取引先企業は今、こう考えています。

・この会社と取引すると、自社のCO2排出量はどうなるのか

・サプライチェーン全体の排出削減に貢献できるのか

・将来の規制リスクは抑えられるのか

つまり、「どれだけ優れているか」ではなく、「一緒に組んだときに、どんな未来を作れるか」が問われているのです。

ここで重要になるのが、情報開示です。なぜなら、どれだけ優れた取り組みをしていても、それが“見えなければ存在しないのと同じ”だからです。

CO2排出量が分からない。

削減の取り組みが説明できない。

将来の方針が見えない。

この状態では、評価のしようがありません。そして評価できないものは、残念ながらリスクとして扱われます。これは厳しいようですが、極めて合理的な判断です。特に脱炭素の文脈では、「分からない」は「問題があるかもしれない」と同義になりつつあります。

まだ多くの企業がこのことに気づいていません。では、情報開示を進めると何が起きるのでしょうか。確実に言えることの一つは、御社が「選定のテーブルに乗る」ようになるということす。そしてもう一つ、より重要な変化があります。

それは、交渉力が上がるという点です。CO2排出量を把握し、削減の取り組みを数値で示せる企業は、「説明できる企業」になります。説明できるということは、比較優位を証明できるということです。

これは単なる報告ではありません。いわば「見える化された競争力」です。さらに言えば、情報開示は新しい市場への扉も開きます。グローバル企業のサプライチェーン、ESGを重視する顧客、大手企業の調達案件。これらはすべて、「説明できること」が前提条件になりつつあります。

つまり「共通言語としての脱炭素」で自社の価値を語れるかどうかが、参入できる市場を決めるのです。実際に、環境価値を軸にした提案によって、これまで越えられなかった市場の壁を突破する事例も増えています。

もう一つ、見逃されがちなポイントがあります。情報開示は、社内にも効きます。排出量を測る。データを整理する。改善策を検討する。このプロセスを通じて、社員による経営の解像度が一気に上がります。

どこに無駄があるのか。どこに改善余地があるのか。営業のために始めた取り組みが、結果として会社内部の力を高めていくのです。

ここまで見てくると、情報開示の意味はかなりはっきりしてきます。これからの脱炭素時代において、情報開示をしない会社は、「何もしていない会社」として扱われます。一方で、情報開示をする会社は、「価値を説明できる会社」として扱われます。そこでサプライチェーンに選ばれるのは、当然ですが「説明できる会社」なのです。

脱炭素は、制約ではなく機会です。情報開示は、その機会を現実のビジネスに変えるためのツールです。御社の取り組みは、すでに価値を持っているかもしれません。

でもそれは、伝わらなければ何の意味も持ちません。あとはそれを、「伝わる形」にするだけです。次に選ばれるのは、どの会社でしょうか