エネルギー危機は脱炭素を加速するのか、それとも逆行させるのか

最近、エネルギーに関する話題で自己紹介がてらお話をしていると、決まってと言っていいほど似たような問いをいただくようになりました。「今回のイラン問題に端を発するエネルギー危機は、再生可能エネルギーへの転換を促すのでしょうか、それともLNG不足によって石炭火力への回帰が進むのでしょうか?」というものです。

この問い、実はなかなか扱いが難しいテーマでして、というのもどちらの見方もそれなりに筋が通っているように見えるからなのですが、あえて申し上げるとすると、短期的な現象と中長期的な構造変化とがごちゃまぜになっている議論だと整理した方が分かりやすいのではないかと感じています。

実際、足元のエネルギー市場の動きを見ていると、むしろ石炭回帰の方が現象としては理解しやすい側面があるように思われますし、LNGの調達が不安定になり価格が高騰する局面において、既存インフラとして利用可能な石炭火力を再稼働させるという判断は、エネルギー政策として極めて合理的な選択であると言わざるを得ません。

そもそもエネルギーという分野は、理想や理念よりもまず供給の安定性が優先される世界でありまして、どれほど環境負荷が低い電源であったとしても、必要なときに止まってしまうのであれば産業の基盤としては成立しないという現実がある以上、「脱炭素は一旦後退するのではないか」という見方にも、それなりの説得力があるように思えるのです。

ただし、この議論をもう少し長い時間軸で見てみると、また違った景色が見えてくるのではないかとも感じています。

ここ数年のLNG市場の動きを振り返ってみると、今回の構造的な変化がどこから来ているのかがよく分かりますが、ロシアからのパイプラインガスに大きく依存していた欧州が、その依存度を急速に引き下げる必要に迫られた結果として、LNG市場への本格的な参入を余儀なくされたことが、需給逼迫の直接的な要因となったことはご承知の通りです。

その結果として、もともと日本を含むアジア向けが中心であったLNG市場に欧州が加わることになり、スポット価格は一時的に数倍に跳ね上がるなど大きな変動を見せ、日本の電力会社やガス会社が調達に苦慮する状況が現実のものとなりました。

では、その欧州がこの状況にどのように対応したかという点を見てみると、ここがなかなか示唆に富んでいるのですが、一方では停止していた石炭火力を再稼働させるという判断を行いながら、他方では再生可能エネルギーの導入をむしろ加速させるという、一見すると矛盾しているようにも見える対応を取っているのです。

この動きについては、短期と中長期という時間軸を分けて考えると理解しやすくなりますが、当面の供給不足に対しては既存インフラで対応しつつ、同時に将来に向けては構造そのものを変えていくという、いわば二段構えの戦略を採用していると考えることができるのではないでしょうか。

その背景にあるのは、今回のエネルギー危機を通じて「特定の資源や特定の地域に依存することのリスク」が改めて強く認識されたという点にあると思われますし、この構造的なリスクは化石燃料を使い続ける限り基本的には避けられない性質のものである以上、いずれどこかで手を打たざるを得ない課題であるとも言えそうです。

こうした視点に立ってみると、再生可能エネルギーの意味合いもこれまでとは少し違って見えてくるのではないでしょうか。

従来はどちらかと言えば「環境に優しい電源」という文脈で語られることが多かった再エネですが、最近ではそれに加えて「自国で確保できるエネルギー」であるという側面が強く意識されるようになってきており、太陽光や風力といった電源が持つ「輸入に依存しない」という特性が、エネルギー安全保障の観点から再評価されているように見受けられます。

このように整理してみると、冒頭の問いに対する答えは、どちらか一方に収れんするものではなく、短期的には石炭回帰が進みながらも中長期的には再エネ転換が加速するという、いわば両方が同時に進行する状態として理解するのが適切なのではないかと感じています。

この構造、少し角度を変えて見てみると、サーキュラーエコノミーの議論とよく似ているようにも思えるのですが、従来型の資源消費に依存している限り外部環境の変化に対して脆弱であるという点では共通しており、構造転換の必要性が外圧によって顕在化するという流れもまた同じであるように見えるのです。

では、このような状況を日本企業としてどのように捉えるべきでしょうか。

ここでよく見かけるのが、「石炭回帰が進むのか、それとも再エネが伸びるのか」という二者択一的な捉え方なのですが、実態としてはその両方が進む以上、どちらかを当てに行くという発想そのものが少し的外れになってしまう可能性があるのではないかと思います。

むしろ重要なのは、この「移行期そのもの」を前提にして、自社のエネルギー戦略や事業戦略を組み立てることであり、短期的にはエネルギーコストの上昇や調達リスクへの対応を進めつつ、中長期的には再エネ導入やエネルギー構成の見直しにどう関与していくかという、時間軸ごとの整理が求められる局面に来ていると言えそうです。

さらに言えば、この問題は個社単体で完結するものではなく、サプライチェーン全体に影響を及ぼす性質のものである以上、取引先を含めたエネルギーのあり方をどのように設計していくかという視点も、今後は無視できない要素になってくるのではないでしょうか。

エネルギーを巡る環境は、しばらくの間は不安定な状態が続くものと思われますが、その不安定さは裏を返せば構造転換が進行しているサインでもありますし、これまでの前提が崩れる局面においては、新しいビジネスの機会が生まれる余地もまた大きくなる傾向があることを考えると、一概にネガティブな要素ばかりとは言えない側面もあるように感じています。

この問題、読者の皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。