ナフサ逼迫はサーキュラーエコノミーを加速させるのか?

最近、化学業界の方とお話ししていると、ナフサの需給についての話題を耳にする機会が増えてきました。

「ナフサが足りなくなると、やっぱりリサイクルは進むんですかね?」

そんな問いかけをいただくこともあります。なるほど、原料が不足するのであれば代替として再生材の活用が進む、というのは直感的には分かりやすい話です。実際、そのような側面はあると思います。

ただ、この問題はもう少し構造的に捉えてみた方が良さそうです。ナフサはプラスチックをはじめとする石油化学製品の基礎原料です。この供給がひっ迫するということは、単に価格が上がるという話にとどまらず、これまでのビジネスの前提そのものに影響を与える可能性があります。

これまでのプラスチック産業は、安価で安定的に供給されるバージン原料を前提に成り立ってきました。言ってみれば、リニアエコノミーの中で最も成功してきた分野の一つです。

ところが、その前提が揺らぎ始めると、企業の意思決定は少し様子が変わってきます。原料コストの上昇や供給不安は、環境対応というよりも、より直接的な経営課題として認識されるようになるからです。

ここで興味深いのは、これまでサーキュラーエコノミーがどちらかというと「環境に良い取り組み」として語られてきたのに対して、ナフサ逼迫はそれを一気に「やらざるを得ない話」に変える可能性がある、という点です。

実際、資源制約が現実のものになると、これまで後回しにされていた選択肢が一気に検討対象に入ってきます。再生材についても同様で、これまでは品質面や供給面、価格面での課題から、用途が限定されてきたという経緯があります。思ったほど安くない、安定供給が難しい、仕様がやや劣る、といった理由で、あくまで補完的な存在にとどまっていたわけです。

しかしながら、バージン材の側に制約がかかるとなれば、比較の前提が変わります。多少の仕様差があったとしても、調達できるかどうかという観点が優先される局面も出てくるでしょう。そうなると、「再生材を使う理由」が環境配慮から資源確保へとシフトしてゆく可能性が出てきます。

ただし、ここで一つ注意しておきたい点があります。ナフサが逼迫すれば自動的にサーキュラーエコノミーが進むのかというと、必ずしもそう単純ではありません。技術的に再生が可能であることと、それがビジネスとして成立することの間には、意外と大きな隔たりがあるからです。

たとえば、再生材の品質がある程度確保できたとしても、誰が安定供給を担保するのか、価格をどのように決めるのか、既存のサプライチェーンの中でどう位置づけるのか、といった問題が残ります。

これらは技術の問題というよりも、むしろ仕組みの問題です。これまでのリサイクルは、リニアエコノミーの枠組みの中で、廃棄物処理の負荷を軽減するための対策として位置づけられてきました。そのため、どうしても本流のビジネスとは少し距離を置いた形で運用されることが多かったのだと思います。

これに対してサーキュラーエコノミーは、資源の流れそのものを循環型に組み替えようとする考え方ですから、本来はサプライチェーン全体に手を入れる必要があります。

ナフサ逼迫という事象が、その意味で既存の前提を見直すきっかけになり得ます。たとえば、回収から再資源化までを一体として設計し直すことや、再生材を前提とした製品設計を行うこと、さらには環境価値を含めた新しい価格の考え方を導入することなど、これまでとは違った発想が求められるようになるかもしれません。

こうした動きは、一見するとコスト増への対応のようにも見えますが、見方を変えるとそれは新しいビジネス機会の入り口でもあります。社会的要請に応える取り組みが、新たな市場を生み出すという構造はこれまでも繰り返し見られてきましたし、今回も同じような展開になる可能性は十分にあるのではないでしょうか。

ナフサの需給がひっ迫することで、サーキュラーエコノミーは加速するのか。私としては、「ある程度、必ずそうなる」と考えています。単に再生技術を高度化することではなく、サプライチェーン全体を巻き込んだ形でビジネスの仕組みを作り替えることが必ず進みだすと思われるからです。すでに「サーキュラーエコノミー」という概念そのものについて、日本経済全体で見たときに、言わば「調理前の予熱が済んでいる」状態に近いことがその理由です。ここ数年、日本経済は各所でサーキュラーエコノミーについての勉強を繰り返してきたと言えます。そうだとすると話は早い、そんな段階に来ているという認識はあちこちに点在しているはずです。

リニアエコノミーを前提とした仕組みがしっかりと出来上がっている中で、その前提を崩すのは簡単なことではありません。でも、前提が揺らぎ始めている今だからこそ、そこに踏み込む余地が生まれているのです。

この変化を単なるリスクとして受け止めていては時代を見誤ることになる、私は強くそう思います。

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