新しい年を迎えるたびに、私たちは少し背筋を伸ばし、「今年はどんな一年になるのだろうか」と考えます。2026年は、脱炭素というテーマにおいても、これまでの延長線上では語れない変化がいくつも重なって立ち現れてくる年になりそうです。
これまでは「やるべきだ」「重要だ」と言われながらも、どこか努力目標や将来課題として扱われがちだった脱炭素が、制度や市場、そして企業経営の現場において、より具体的で現実的なテーマとして姿を変えつつあります。今年から始まる新たなルール整備や政策運用は、その象徴と言えるでしょう。
中でも注目されるのは、産業政策の側面で期待される変化です。脱炭素は、もはや環境部門だけの課題ではなく、産業競争力そのものを左右する要素として位置づけられ始めています。省エネ投資や再生可能エネルギーの導入支援にとどまらず、素材産業や製造業のプロセス転換、さらにはサーキュラーエコノミーを前提としたビジネスモデルへの後押しが、政策の中核に据えられつつあります。
これは「規制が厳しくなる」という単純な話ではありません。見方を変えれば、新しい前提条件のもとで競争ルールが再設計され、そこにいち早く適応した企業が次の成長機会を手にする、そんな局面に入ってきたとも言えます。脱炭素はコストではなく、戦略として扱われる段階に差しかかっているのです。
さらに議論が進んでいるのが、いわゆる「適応」の分野です。これまでの気候変動対策は、温室効果ガスをいかに減らすかという「緩和策」が中心でした。しかし近年、豪雨や猛暑、台風の大型化などを前に、「被害を前提に、どう備えるか」という視点が急速に重みを増しています。
災害対応力の強化、インフラのレジリエンス向上、地域社会や企業の事業継続計画(BCP)の見直しなどは、もはや一部の先進的な取り組みではありません。脱炭素と適応は車の両輪であり、どちらが欠けても社会は前に進めない。その認識が、ようやく共有され始めたように感じます。
昨年開催されたCOP30では、「オーバーシュート」という言葉が盛んに議論されました。気温上昇を1.5℃に抑える目標が一時的に達成できなくなる可能性を前提に、それでもどうやって影響を最小化し、再び軌道に戻すのかを考える議論です。こうした話題が現実味を帯びるにつれ、「今年の夏はさらに暑くなるのではないか」といった感覚的な不安も、決して大げさではなくなってきました。
気候変動は遠い未来の話ではなく、すでに私たちの日常や事業環境の中に入り込んでいます。
こうした状況を前にすると、「脱炭素対応は待ったなし」という言葉の重みを改めて感じます。企業の対応もまた、立ち止まることを許されない時代へと確実に進んでいるのでしょう。ただし、ここで強調したいのは、恐怖や義務感だけで動く必要はない、という点です。
脱炭素や循環経済への取り組みは、社会的な要請であると同時に、ビジネスの可能性を広げる契機でもあります。新しい技術、新しい連携、新しい価値の提示によって、これまで見えなかった市場や顧客に出会える可能性が確かに存在します。
新しい年の始まりは、考え方を少し切り替える絶好の機会です。脱炭素を「対応すべき課題」としてだけでなく、「自社の強みを再定義する材料」として捉えてみる。その一歩が、結果として企業の持続的な成長につながっていくのではないでしょうか。
社会にとって良いことを実践する企業が、ビジネスとしても評価される。その流れは、もう後戻りしないところまで来ています。2026年が、そのことを実感する一年になることを、私は静かに、しかし確かな手応えをもって感じています。