先日、ブラジル・ベレンでCOP30が開催されました。会期中の報道では、「議論の停滞」「危ぶまれるカーボンニュートラル」といった刺激的な論調が目立っていたように思います。確かに、各国の合意形成が容易ではないことは事実です。しかし、メディア報道が伝える印象とは少し違い、今回のCOP30は気候変動対策の次のステージに進むための重要な“地ならし”が着実に進んだ会議でもありました。
COP30では何が議論されたのか
まず緩和分野では、各国のNDC(国別削減目標)の進捗が精査され、2035年目標の提示に向けて課題が整理されました。NDCの強化は毎回のCOPで難航しますが、これは各国の経済・社会システムの根幹を揺るがすテーマであることを踏まえれば、簡単に「強い数値だけを積み増す」わけにはいかないからです。
適応分野では、気候変動に伴うリスクの顕在化が世界各地で進む中、途上国を中心とした支援枠組みの強化が求められました。異常気象と温暖化の因果関係を科学的に分析するイベント・アトリビューションが実用化し、損失と被害(Loss & Damage)の制度設計が現実味を帯びてきたことは、すでに国内外の議論でも指摘されています。
また、資金問題は今回も大きな論点となりました。先進国による年間1000億ドルの資金拠出は一定程度進んだものの、各国が必要とする投資需要を満たすにはまだ大きなギャップがあります。
そしてグローバル・ストックテイク(GST)では、パリ協定の実施状況を総合的に評価し、世界全体が1.5℃目標達成にどれほど遠いのかを再確認する結果となりました。
今回「ネイチャーCOP」とも言われた背景には、気候変動と生態系破壊が同時進行する現状を踏まえ、自然解決策(NbS)が主要テーマとして取り上げられたことがあります。森林保全、再生型農業、生態系への投資を含む広い意味での「自然資本」がクローズアップされたのは、気候だけを議論しても地球の持続可能性は守れないという認識が国際的に共有され始めた証と言えます。
緩和分野は本当に「進展がなかった」のか
今回、緩和分野で目立った成果がなかったとする見方があります。ただし私は、その評価は少し表層的ではないかと考えています。というのも、そもそもCOP29までに既に相当程度の野心的な目標が積み上げられており、これをさらに上乗せすること自体が極めて難しい局面に入っているからです。
また、パリ協定第6条の市場メカニズムが前回までに整理され、企業を含む民間主体による削減貢献のルールが明確になったことは大きな前進です。これにより、GHG排出削減の主戦場は政府から企業・自治体・投資家などの「実施主体」に本格的に移りました。国際交渉だけで排出削減が進む時代は終わり、実装力が試されるフェーズに入ったのです。
そう考えると、今回のCOP30は「次のプレイヤーが主役となる準備が整った会議」と見ることもできるのではないでしょうか。
カーボンバジェットは確実に減っている
他方で、1.5℃シナリオの実現に向けて十分な道筋が描けていないこともまた事実です。残されたカーボンバジェットは時間の経過とともに減少し、気候システムが“後戻りできない特異点”であるティッピングポイントを超える懸念が現実味を帯びています。これは特定の国の問題ではなく、人類全体が共通で向き合うべき課題です。
私たちは、毎年の異常気象が「たまたま起きている」のではなく、すでに温暖化が社会経済の基盤を揺るがす現象に変わりつつあることを、今一度認識しなければなりません。
企業の取り組みは着実に加速している
明るい材料もあります。企業の脱炭素の取り組みは年々高度化し、重層的に進み始めています。たとえば、
●再エネ導入の拡大とPPAモデルの普及
●分散型エネルギーを活用した工場・物流拠点の省エネ化
●サプライチェーン排出量(スコープ3)の精査と削減目標の策定
●循環型の素材利用やリサイクル材の活用といったサーキュラーエコノミー戦略
●技術開発と人財獲得を組み合わせた「強みづくり」への投資
これらはいずれも、脱炭素が“コスト”から“成長戦略”へと位置づけが変わりつつある証拠です。実際、SDGsやESGの潮流を味方につけ、市場を拡大した企業がすでに現れています。社会に良いことを実践する企業にこそ、新しい顧客が集まる時代になったと言えるでしょう。
COP31に向けて
今回の取り組みの成果は、来年トルコで開催されるCOP31に向けてさらに磨かれていくはずです。世界が2050年カーボンニュートラルに向けて動き続ける中、日本企業にとっても今が大きな変革のチャンスです。 気候変動は確かに難しい課題ですが、同時に、技術革新や価値創造の“新しい扉”でもあります。2030年、そして2050年に向けて、社会課題に真摯に向き合う企業こそが次の市場を拓いていく。その潮流をこれからも注視し、皆さまと共に前向きに取り組んでゆきたいと思います。