最近、脱炭素に関する話題の中でよく耳にするようになったのが、GX-ETSと呼ばれる排出量取引制度です。日本でもいよいよ市場の稼働開始が新年度に迫り、さまざまなところで準備が活発になってきました。カーボンニュートラルに向けた政策の一つとして、企業が排出するCO₂の量に価格が付くようになるのではないか、あるいは将来的には排出量を売買する市場が形成されるのではないか、という前評判も聞こえてきます。
もっとも、この制度が本格的に稼働したとしても、すぐに大きな市場が立ち上がるのかどうかはまだ分かりません。排出量取引は欧州などで先行していますが、日本では制度設計の詰めが長引いているところもあり、市況についてもさまざまな見方が交錯しているようです。
しかしその一方で、企業の行動は確実に変わり始めています。最近とみに増えているのが、ESG情報の開示を急ぐ企業です。上場企業を中心に、環境・社会・ガバナンスに関する情報をどのように開示するのかという議論が急速に進んでいます。
そして、その開示情報の中核となっているのが脱炭素に関する情報です。自社のCO₂排出量をどのように把握しているのか、どのような削減目標を掲げているのか、さらにはサプライチェーン全体での排出量をどう管理していくのか。こうした内容が、企業価値を評価するための重要な指標として注目されるようになってきました。
もちろん、こうした情報を開示したからといって、明日から何かが急激に変わるわけではありません。企業の評価は長い時間をかけて形成されるものですし、CO₂排出量の削減も一朝一夕に進むものではないからです。
それでも、多くの企業が情報開示を急いでいるのには理由があります。もしもタイムリーに開示しなければ、何か大きな流れに乗り遅れてしまうのではないか。そんな懸念が、企業の間で広く共有されているように見えるのです。
このような状況を見ていると、脱炭素というテーマが単なる環境対策の枠を超えて、企業活動の新しいルールになりつつあるのではないかという印象を受けます。かつて品質管理や情報セキュリティが企業活動の前提条件となったように、これからはCO₂排出量の管理や情報開示が企業経営の基本項目になっていくのかもしれません。
そうだとすると、次に考えたくなるのは、これをビジネスチャンスにできないかという点です。脱炭素というテーマはどうしてもコストの問題として語られがちですが、視点を少し変えてみると、その周辺にはさまざまな新しい市場が生まれつつあります。おそらく、すでにそうした可能性を検討している企業も少なくないはずです。
たとえば、その一つが「CO₂排出量の可視化」を支援するビジネスです。企業がESG情報を開示するためには、まず自社の排出量を正確に把握しなければなりません。排出量の算定に関わるサービスもさまざまな形で提供されはじめています。算定・開示・認証、さらに将来的な価値化へと広がる商機はさらに広がるものと思われます。
ここに、新しいビジネスの可能性があります。計測した排出量を顧客や投資家と共有するための仕組み、さらに業界特化型の導入コンサルティングなど、いわば「脱炭素関連ビジネス」とでも呼べる「裾野産業」です。実際、海外ではすでにこうしたサービスを提供する企業が急速に増えていると聞きます。
このようにCO₂削減量そのものを売買する市場がすぐに拡大しなかったとしても、その周辺には多くの機会が存在します。かつてゴールドラッシュの時代に、飲食やジーンズを売ったビジネスが成功した例にも似て、広い意味での脱炭素関連ビジネスを考えてゆくところにこそ機会が見つかるはずです。
世の中には、不思議なことに同じ風景を見ていても、そこに機会を見出す人とそうでない人がいます。脱炭素というテーマも、おそらく同じことなのだろうと思います。
見えている人には見えている商機。それを掴むなら今、ということですね。