投資家が求める「見える化」と経営の新常識

 つい先日のこと、少し変わったご相談を受ける機会がありました。

 やや小ぶりの上場企業のご担当者から「FTSEスコアを改善したいが、何から手をつけてよいのかわからない。上流の考え方から整理して教えてほしい」というものでした。

 FTSEとは、英国フィナンシャル・タイムズ紙とロンドン証券取引所の共同出資で設立されたFTSE Russell社が運営する企業評価指標のことです。世界中の上場企業を対象に、ガバナンスや社会性、環境対応など、サステナビリティの観点から総合的な評価を行っています。

 つまり、投資家が企業を選ぶときの“信頼度スコア”のような役割を果たしているのです。

投資家にとっての「サステナビリティ

 このスコアは、単なる環境配慮度合いの点数ではありません。投資家にとっては「企業がどれほど未来の変化に強いか」を示す信号のようなものです。気候変動や社会的責任をどのように経営に組み込んでいるか、それを定量的・論理的に説明できるかが問われています。

 日本企業も例外ではなく、FTSEやMSCIなど海外指標の採用が広がるにつれ、国内IR(インベスター・リレーションズ)の現場でも対応を迫られています。にもかかわらず、仕組みの全体像や背景となる思想を正確に理解している企業はまだ多くありません。

ロジックの中心はTCFD

 私はその問い合わせに対してこうお答えしました。

「サステナビリティ対応の要はTCFD提言です」と。

 TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称で、企業が気候変動リスクや機会をどう認識し、経営にどう反映させているかを投資家に説明するための国際的なガイドラインです。

 TCFDに基づく開示を整備することは、単にCO₂排出削減をPRするためではなく、「気候変動が自社の財務や事業にどんな影響を与えるか」を明らかにすることが目的です。これがFTSEスコアの中でも重要な評価項目になっています。

 近年は金融庁や東京証券取引所もTCFDに沿った情報開示を推奨しており、国内企業の対応も急速に進みつつあります。つまり、TCFD対応を理解することが、IR活動の第一歩になるのです。

評価軸の基礎は共通

 とはいえ、FTSE、TCFD、あるいはGRI、ISSBなど、似たような「コード」や評価軸が乱立しているようにも見えます。

 しかしそれぞれの基礎となる考え方は共通しています。いずれも「社会課題への取り組みを企業の持続的成長の源泉として位置づける」ことを前提にしています。したがって、どれか一つに偏るよりも、共通する理念を理解し、自社の言葉で表現できることが最も重要なのです。

SDGsがもたらす可視化のヒント

 この共通理念を理解するうえで、SDGs(持続可能な開発目標)は非常に役立ちます。

 SDGsは国連が掲げる17の目標から成り立ちますが、その本質は「社会・環境・経済を同時に持続可能にするためのフレームワーク」です。

 企業活動をSDGsの観点から見直すことで、どの領域に自社の価値提供が貢献しているのかを“見える化”できます。

 たとえば、エネルギー効率の改善は「目標7(エネルギーをみんなに)」、女性の活躍推進は「目標5(ジェンダー平等)」、資源循環や廃棄物削減は「目標12(つくる責任 つかう責任)」に対応します。

 このように整理してゆくと、企業の取り組みをFTSEやTCFDの言葉に翻訳しやすくなり、投資家にも説得力をもって説明できるようになります。

脱炭素への道筋を描く

 そのうえで、脱炭素への取り組みをTCFDの文脈に沿って説明できるようになると、FTSEスコアは確実に向上します。

 たとえば「Scope1・2の削減計画をいつまでにどう実現するか」「再エネ比率をどのように高めるか」「カーボンプライシングをどのようにリスク評価へ反映させるか」などを、具体的な数値やロードマップとして提示することです。

 投資家は、環境目標を掲げている企業よりも「行動計画と検証プロセスを明示している企業」に高い評価を与えます。

 つまり“できるかどうか”よりも、“どのように考え、実践しているか”を見ています。

IRと経営の融合へ

 ここで大切なのは、IR活動を単なる情報発信の場ではなく、企業経営そのものと統合して考えることです。

 脱炭素やサステナビリティへの取り組みは、もはやCSR部門の専売特許ではありません。中期経営計画や財務戦略の根幹に関わるテーマになっています。

 経営者がこの流れを自社の成長機会として捉え、積極的にストーリーを発信することで、投資家だけでなく顧客や地域社会との信頼関係も深まっていきます。

未来志向のIRへ

 サステナビリティ経営は、単なる「社会貢献」ではなく、将来の事業リスクを減らし、企業価値を高める“経営戦略”です。

 脱炭素というテーマは、エネルギーコストやサプライチェーン全体の効率化、さらには新しい製品・サービスの創出へとつながる可能性を秘めています。

 FTSEスコア改善の取り組みを通じて、企業が内側から変わっていく――それこそが真の意味での「サステナビリティ経営」だと思います。