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コラム

2019.09.03

パラダイムの転換とビジネスチャンス

 最近、同業の方々などとあちこちでお話する機会がありまして、今日はその中でおぼろげに見えてきた未来のビジョンについて共有させていただきたいと思います。

 産業革命以降今日まで、人類は主に地下資源を中心として地球が持つさまざまな資源を収奪し、食いつぶす形で文明を発達させてきたという認識に大きな齟齬はないと思います。

 世間で最近よく言われる「持続可能性」、なるコトバについて、地下資源の収奪をベースとしたモデルが持続可能でないという考え方がまずベースにあるということを改めて認識する機会があったわけです。

 この話題に関してはまず世界各地の温度差や時間差・地域間格差などを捨象して、議論をものすごく単純化してお話すると、将来の地球は人類が資源の収奪を続けていてはもはや持たない、だったら収奪を止めるしかない、という考えに進んでゆくわけです。収奪しないとなると、あとはこれまで手にした資源をなるべく効率的に循環させることでしのぐしかない、ということになりますね。

 実はこれこそが、サーキュラーエコノミーと言われる考え方の基礎なのです。そしてその最先端を行く会社が現在私のクライアントになってくれているというのは大変幸運な巡り合わせです。何もこれは今に始まったことではなく、明治以前から日本では、勿体ないというコトバに代表されるとおり、サーキュラーエコノミーに通じる美徳を尊重してきた歴史があります

 実は今、新しいISO規格としてこのサーキュラーエコノミーを取り上げるための基礎的な議論が各国間で行われているところなのですが、議論はまだまだ紛糾しており、何を持って規格とするのか、それはどのような縛りを持つべきものなのかと言ったあたりについてもまだ全容は見えておりません。21世紀後半の地球がよりよい星になりますように、そんな思いを反映できるような社会へと世界は少しずつ変化しているのです。

 環境ビジネスに関わる会社のスタンスとしては、主に対応のタイミングで分けると次の3つになると思います。すなわち、①来るべきISO時代を先取りしてビジネスチャンスを積極的に開拓する、②ISO基準の中身が決まって発表されたらその中身を確認して、素早く対応することで競合他社に先んじる、③ISOが普及する流れに沿って社会の変化を見極めて、どうしても対応しなくてはいけないと判ったらそこで手を打つ。

 各社各様の考え方はあると思いますが、私は日本の環境ビジネスが他の先進国の場合に比べて①の対応を取りやすい位置にいると認識しています。それは、①国内の環境基準が世界に比べて厳しくなっている部分があること、②全国津々浦々まで、同じレベルの環境対策が普及していること、③このため、主に処理事業者の技術水準が高いこと、などによるのですが、だとすれば後は高い技術を応用したビジネスモデルを仕組みとして構築すれば良い、ということになるのではないでしょうか。このビジネスモデル作りについては、残念ながら環境ビジネスがやや不得意としている要素だと思います。

 ここで一つの実例を挙げましょう。A県に本社のあるB社は、特許技術である金属廃材の選別工程を活用して、再生材でバージン材と同等のスペックを実現することに成功しました。普通の会社なら、この特許技術を売り物にするところだと思いますが、同社の対応はユーザーたるメーカーや、その機械を使う事業者などを巻き込んで、バリューチェーン全体をカバーするプラットフォームを構築し、素材メーカーとしてその主導的な立場に立ったことでした。今や同社の再生材は、品質の良さや価格の安さに加えて、化石燃料を大量に使うバージン材に比べてカーボンフットプリント(その製品1単位を作るのに要したCO2排出量の累積値)が極めて低いことなどから欧州の大手メーカーが強い関心を示すようになっています。

 機会を捉えてパラダイムの転換まで一気に推し進めたB社の例は、時代の変革期に臨む経営者が学ぶべき好例だと思います。あなたの会社が目指すパラダイムの転換はどんなものになるのでしょうか?

2019.08.27

儲かる環境ビジネスとは

先日、いま業界で注目されている「ちょっと違う」ビジネスモデルを見学しに行くチャンスがあったので、今日はそこで得たインサイトを共有させていただきます。

 X県とY県の県境に近い地方中核都市にあるA社は、廃棄物処理事業者として長い社歴と地元における信用を確立した優良企業です。本来ならば確固たるその事業基盤を強みとした堅実経営を志向してもおかしくないところ、A社の社長はそうしませんでした。最優先で経営資源を注ぎ込んだのが新技術開発と新しいビジネスモデルのためのプラットフォームづくりだったのです。それはどんなものなのでしょうか?

 後から説明を聞けばすんなりと理解できる話ですが、特に新技術開発は経営的に大きなリスクを取る決断だったと思います。「捨てればゴミ、分ければ資源」とは、廃棄物処理業界では長らく言い古されたコトバです。同社が開発した技術がすごいのは、選別後の廃棄物がバージン材料の技術的仕様に近いところまで純化できることが実証された点です。まさに究極の選別技術と言っても過言ではないでしょう。しかも低コスト。

 多大な経営資源を注ぎ込み、ようやく技術を確立した、それが市場に受け入れられるだけの性能を示した、としましょう。普通の会社なら、この「技術」を売ろうとするはずです。いや、そもそも世の中には廃棄物処理事業者でなくても「こんなにすごい技術がある。是非これを買ってくれ」という営業スタンスを取る会社が無数に存在するのですが、今日はこの考え方こそがビジネスを動かなくする最大の理由だということを申し上げたいのです。

 A社が凄いのは、開発した技術の知的財産を保護したうえで、単に技術を売り込むのではなく、再生資源が未来の社会にもたらす価値そのものを提供しようとしていることです。

 環境ビジネスに関わる方なら、カーボンフットプリントという考え方をご存知の方も少なくないと思います。技術的仕様がほとんど変わらないバージン材とA社の再生資源ですが、実はカーボンフットプリントで見ると全然違う、A社の再生資源の方が圧倒的にCO2排出量が少ない、という認定された論拠があり、これが欧州を中心とした市場にものすごく高く評価されているのです(まだ日本では欧州のように性能が同じならカーボンフットプリントが低い再生材、という話にはなりにくいようです)。

 A社はそのような評価を承知したうえで、再生資源を使ってくれる候補となるメーカー、更にはその製品を使う事業者まで巻き込んで、バリューチェーン全体を包括するプラットフォームを作り上げました。この手法自体は、これまでも様々な場面で「〇〇協議会」や「〇〇協会」と言った形で使われてきたものなので、何も目新しいことはありません。ただ、そこでリーダー企業となることによってバリューチェーン全体でカーボンフットプリントの優位点を市場に対して訴求することができます。地方の一企業がリーダーになれたその理由は、品質保証につながる選別技術を開発したから、ということにつきます。

再生資源なので価格的に安く、仕様的にバージン材と遜色ないものが、カーボンフットプリントでも大きな優位性を示すとなれば、バリューチェーンにおける素材メーカーとしてのA社の立ち位置は盤石なものとなります。A社は名だたる大企業を従えたバリューチェーンのリーダーとして、まさに自社の再生品にとっての新しい市場を作り出しつつあるのです。

廃棄物処理事業者が、再生品の品質を上げ、新たな価値にフォーカスすることでプラットフォームのリーダーとなる。そして再生品の流通を盤石なものへと仕上げてゆく。ビジネスマインド的にいえば、「もはや産廃業者ではない」というくらいの変化です。でも、この取り組みこそがまさに儲かる環境ビジネスへと変わって行くためのカギなのです。A社はまず、その源泉たる技術力を「選別工程」に注ぎ込むことで未来の扉を開き、そしてプラットフォームを形成することで新しい市場の確立に成功しました。あなたはどうやってご自身の未来を開きますか?

2019.08.13

自然資本のバランスシート

 先日、緑が分厚い山裾をクルマで走る機会がありました。普段は街路樹やマンションの植え込みなど、都会の喧騒にまみれた人工的な緑しか目にしていないせいか、とても豊かな気分にさせられたものです。

 自然資本、という考え方は以前このコラムでも紹介させていただきました。手つかずの自然が社会にどれだけの価値をもたらしているか、という視点が国際社会でも注目されるようになったのはごく最近の事だと思います。

 伝統的な考え方に基づけば、開発のためにある程度自然を犠牲にすることは仕方ない話であって、開発によって人間社会が豊かになることでその行為は正当化されてきたわけです。これまでも野放図な開発は批判されてきたわけで、特に日本では昭和の時代に相次いだ公害によって自然資本も大きく毀損されたことから、環境アセスメントに代表される危険予知と対策に関する検討は早くから導入されていました。

 しかしながら、環境アセスメントはそのスタート地点が「まず開発ありき」というものであることから、どうしても「ここまで痛めるのは仕方ない」的な結論がはじめから予定されたものになりやすく、自然資本が本来持っていた価値の保全、あるいはその向上というところまで踏み込めたものになっていないのが現状だと思います。

 たとえばここ最近、IoTなどを活用したモニタリング技術が飛躍的に向上していることを生かして、自然資本の現況をリアルタイムで評価できるようなシステムが構築できたとすると、そこには何か価値が生まれるのではないか、というのが今回皆さんと共有したい洞察です。具体的には喫緊の課題である気候変動対策が考えられます。

衛星画像を使った解析で、熱帯雨林の減少がモニタリングできるとすると、現地でどのようなことが起きているのかについてはCCDカメラやCO2センサーなどで追跡できるので、とりあえずその情報を集めて、後はAIに解析させるというようなイメージだと思います。そしてその結果を分かりやすく定量的な変数で示せればそれが社会の役に立つのではないか、というところだと思います。

 前回お知らせした通り、アマゾンの熱帯雨林は急激な開発の促進によってかつてない危機に見舞われています。同様に、インドシナ半島から南太平洋島嶼部にかけての熱帯雨林も危機に瀕しており、本来地球が持っていたCO2を固定化する能力は減少する一方なのです。排出量の削減は喫緊の課題ですが、同様に吸収量の低下も憂慮されるべき問題だという認識はまだあまり深刻に考えられえていない状況です。

 今年8月号の雑誌「選択」によると、イギリスのNPOが試算したところでは今わかっている世界中の石油(=確認埋蔵量)を燃やしたと仮定して出てくるCO2の総量が約2兆8千億トン、ところがいわゆる「2度シナリオ」(産業革命以降の温暖化を2℃以内に収める)を実現するためには、もうあと5千6百億トンしか燃やせない(それ以上燃やすと2℃を超えてしまう)、という指摘があります。この5千6百億トンは、熱帯雨林などによるCO2固定化の能力が減ればそれだけ少なくなってしまう数字なのです。

その減少を食い止めるためにも、自然資本の価値とその増減を定量的・科学的に観察・報告できるようにすべきである、世の中の議論は多分そんな方向に進んでゆくのだろうなと見ています。そのために期待されているのが金融の知見であり、実際に今、国際社会では環境と金融の知見が激しくぶつかり合いながら化学反応を起こしつつある、そんな時代なのです。そう遠くない将来に、2度シナリオを達成するために必要な行動が数値目標とともに語られるようになるのではないでしょうか。

 今やその達成が危なくなりつつあることが繰り返し報道される「2度シナリオ」ですが、対策として考えられるものの一つが植林です。ただ、そのスピードは極めてゆっくりしており、石油を燃やしたことによるCO2排出を効果的に吸収できるほどの力はないのですが。

その他、CCSと呼ばれる二酸化炭素回収・貯留システムも有効な対策だと言われていますが、現状ではコスト的な問題が大きいようです。そうなると、どうしても今ある自然資本をどのように保全できるかという取り組みが重要性を帯びてきます。

せめて少しずつでも木を植えて、たとえ高くてもCCS装置を稼働させ、石油や天然ガスの利用を少しでも控えるために。求められるのは、言ってみれば自然資本をも含めた地球環境全体のバランスシートみたいなものなのだろうと思います。まずはそれをしっかりと共有するところから始められるよう、議論を見守りたいと思います。

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